| 昼
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机の上に広げられたままの日誌。 それが今は文字ではなく、艶やかな茶色の髪で占められていた。 細い指にシャープペンを握りしめたまま、日誌の上に顔を伏せて眠っている女が一人。 「………」 道具を取りに部室にもどってきたヒル魔はその光景に足を止めた。 誰もが恐れる泥門高校アメフト部デビルバッツの部室で、うたた寝するなどふつうなら考えられないような行為もこの女にとってはごく当たり前。図書館や教室といった場所とそう大差ないというのだから、笑える。 言動も行動もまぎれもなく優等生のコイツがこの場所にちゃっかり居座る日が来ようとは。 きれいに切りそろえられた髪に。 毎日きちんと洗濯された体操着の清潔な白。 こんな場所には不似合いなハズのそれも、見慣れて久しい。 いつの間にか、この恐れ知らずの女の寝顔を見たのも一度や二度ではなくなっていた。 『相変わらず無防備なこって』 きっとキレイなこいつは痛い目を見なければわからないのだろう。 その無防備さがどれほど愚かなモノであるのか、を。 俺たちを信用してるとか、信頼してるとか、そんなモンは糞食らえ! 野郎ばかりの場所にいて、この無防備さは愚かさ以外の何モノでもありえない。 流れる髪の隙間から覗く白い首筋に、見たヤツがどんな気持ちを抱くのかなんてコイツは考えたこともないのだろう。 「おい!糞マネっ!!」 「…っ!」 ほとんど怒鳴り声に近い声で呼ぶと、それまで静かに上下していた肩がびくっと揺れて女が顔を上げた。 ひどく驚いた顔つきで、何がなんだかわかっていない様子できょろきょろと周囲を見回す。 「な、なに!?」 「……」 「えっと……ヒル魔君?」 「…よだれ垂れてんぞ」 「えっ!?」 慌てて口元を押さえる。 「ノンキに居眠りこいてんじゃねえよ」 アブねえだろうが、なんて思わず口をついて出そうになった言葉は封じて。 ヒル魔は意地悪く目を吊り上げて言うに留めた。 「ごめんなさい」 「………」 「日誌は後にして、グラウンドに出るわ」 無防備で。 素直で。 まっすぐに自分を見る女。 その視線に時々、息苦しさを感じるなんてコトは…認めねえ。 勤勉なマネージャーはまるで何事もなかったかのように救急箱とタオルを持ってヒル魔の横を通り過ぎ、部室を出て行った。 「…クソッタレ!」 一人部室に残されたヒル魔は小さく舌打ち。 自分の意思とは無関係に動きかけた手を壁に叩きつける。 自然と唇からこぼれるため息に額を押さえ、ヒル魔は「サイアクだ」と呟いた。 |
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END |
| 2005/3/19 |