| 夜
|
『また…かよ』 すっかり日も落ち、夕闇に包まれる時刻。 デビルバッツの部室に残っていたのは男と女が一人ずつ。 一人はいつものように風船ガムをふくらませつつ、薄いノートパソコンのキーに指を走らせていた。 そして、もう一人はというと机の上の日誌を書きかけの状態で、頭がゆらゆらと揺れて………と思っていたら、ゆっくりと腕を枕にして本格的に眠りの体勢に入っていた。 連日長時間の部活動でマネージャーといえども疲れているのだろうとは思う。 思う、が。 『寝てんじゃねえよ』 と、気づいたヒル魔は胸の内で毒づいた。 居眠りするほど疲れているなら、さっさと他の奴らと同じように帰ればいいものを、あと少しだからと居残るところがコイツらしい。 生真面目。 真面目な優等生。 一緒に部室に残っているのがどれほどの危険人物なのか、まったく理解していないらしい。 テストの成績は良くても、『常識』に問題有りの要注意人物。 シンと静まりかえった室内に、かすかな寝息が聞こえる。 穏やかに安心しきって眠り込んでいる糞マネ。 半ば髪が隠してくれているとはいえ、無防備に寝顔をさらす。 よくもそんなコトが俺の前でできるもんだ、とヒル魔は毎度毎度、思わずにはいられない。 まるで襲ってくださいと言わんばかりの状況設定である。 『誘ってんのか?』 そう思う傍らで、『んなわけねえか』と自嘲の笑みに唇が歪む。 コイツにそんな芸当ができるとは到底思えない。 何も考えていないに違いないのだ。 キレイに梳かれた髪が。 細くて白い首筋が。 そして、やわらかそうな唇が、招く。 そこからヒル魔は目をそらし、ノートパソコンの液晶画面に視線を戻した。 いくら招かれようが近づく気はさらさらなかった。 触れるなど、言語道断。 近づいて触れれば……きっともう手放せなくなる、そんな気がしていた。 自分の独占欲の深さは誰よりよく知っている。 だから、『危険物』には近づいたりしない。 コイツよりも俺の方がずいぶん常識人じゃねえか、と彼は苦笑した。 |
|
END |
| 2005/3/19 |