[獣]

 たぶん、一番最初にあいつを見たとき感じたことは。
『やけにキレイな器をしてやがる』…ってなことだったと思う。

 さらさらと揺れるまっすぐな髪は艶やかで。
 切れ長の目にはまる瞳はまるで紅玉のようにキレイな赤。
 さらに顔のパーツひとつひとつに至るまでが美を追究するように丁寧に作り上げられ、絶妙のバランスで配置されている。
 そのすべてが『人工的な美』なのだということはひと目でわかった。

『こいつが俺の新しい上官、ね』

 細っこくて華奢な女性の身をまとうヤツは名を草薙素子、階級を少佐と名乗った。
 苛烈な戦闘さえ日常茶飯事といわれる九課で、自ら前線に立ち、一癖も二癖もある男どもを束ねるという。
 その時すでに長く戦場にいた俺は、こんな風に物事を捕らえるようになっていた。
 キレイ事をいう評論家たちが言うには、同族殺しができるのは人間だけらしいが、それは間違っていると。
 そんなヤツはもう人間なんかではなかった。
 獣よりも劣るそうした生き物は『ケダモノ』と呼ぶに相応しい。
 同じ職場の人間がどうだとか言う気はない。
 ただ、こんなことを考えた。
 俺を従えようっていうこいつは俺以上の『ケダモノ』か?
 それとも……そうだ、『調教師』とやらだろうか?と。
 見交わす視線の先に答えを見つけることはできなかったが、ぶしつけなほど正面から強く見据えてくる瞳は、実に挑発的に俺を見ていた。
 俺の実力を推し量るように。
 そして、敵か味方かを見分けようとするように。
 本当にぶしつけであからさま。
 なのに隙などどこにもない。

『まるで獣だな』

 そう、まるで警戒心の強い野生の獣のようだと思った。
 しかし、ここで間違いがないように付け加えておくならば、だが、前線に立って躊躇なく敵を葬るヤツの活躍が『ケダモノ』並だったのは確かだ。
 敵に対しては無慈悲で一片の容赦すらなかった。それが戦場におもむく戦士として必要とされる資質なのだから、当然といえば当然の事だ。
 長い付き合いでそうした姿も山ほどみてきた。
 それでも、そう…それでも、だ。今でも思う。
『まるで獣のようだ』
 と。
 アイツほど『ケダモノ』という表現が似合わないヤツもいないだろう。
 そう感じる理由は正直なところ、よくわかっていない。
 誤魔化すなって突っ込まれそうだが、それが本当なんだから仕方がない。
 理由はいろいろ考えた。
 アイツがキレイな見てくれをしてるせいかもしれない、とか。
 アイツが一風変わったヤツだからかもしれない、とか。
 そうそう、変わった思考回路なのを時々感じるが、それはアイツが全身擬体化してるからかも…とかイロイロ考えたりはするのだ。
 現にアイツが同族とか仲間というふうに意識するのは身内の人間だけのことで、それ以外をどう見なしているのかは際どいところだった。相手を自分と同じ生き物と思っていなければ、同族殺しは成り立たない。
 そんな可能性も皆無ではなかっただろう。
 だが、結局のところ考えるよりも先に直感で生きてる俺には、確たる答えを見つけることはできなかった。考えることに飽きていたし、一所懸命求めるだけの価値がそこにあるとは思えなかったせいもある。
 ひとつの事実だけあれば俺にとっては充分だった。

「相変わらず、獣みたいだよな。少佐は」

 本人にそう言うと間髪入れずに鉄拳が飛んでくるのだが、構わなかった。
 決して『ケダモノ』にはならない『獣』。
 そんな存在がいることが妙に嬉しかった。
 ただ、最近になって少し戸惑うのは、野生の獣のはずのソイツが、時々まるで野良猫のような可愛い姿を垣間見せることだった。
 そうした変化の理由が俺にあるのか、アイツにあるのか?
 疑問に対する答えの行方はやはり未だ不明だったりする。


END





素子さんって野生動物みたいかもな〜ってことで、バトー視点でお話を作ってみました♪
でも予定とはどんどん違ってシリアスですよ〜!しかもとりとめがありませんね(^^;
バトーさんから素子さんへの想いの変遷(初期)ってところでしょうか。
まあ、たまにはこんなのも良いかなーと思いますv

2004/12