どしゃぶりの雨が降っていた。
まだ昼間だというのに辺りは暗く、肌を打つ雨が更に見通しを悪くしている。
それでも、バレリアは見えない先をうかがうように神経を集中させて剣を構えていた。
「みんな、油断するな!」
後方から響く少年の声。
と、薄闇を裂くようにして現れた鮮やかな彩がバレリアの視界いっぱいに広がった。
もはや見慣れたその魔物の姿に躊躇することもなく、彼女は剣を振るう。
雨の音と重なる断末魔の叫び。それを最後まで聞き終える前に新たな敵が現れる。
濡れて体に張り付く服の重さと足下のぬかるみに彼女は舌打ちした。
こんな雨の日くらい魔物業も休みをとればいいものを。
「このまま突っ切るぞ!」
左方の少し離れたところから男の檄が飛ぶ。
数メートルの距離のはずが、雨に遮られてぼやけた姿しか捉えられない。
確認の意味を込めて「わかった!」とバレリアも魔物に斬りつけながら怒鳴り返す。同じような返事が人数分あるのを頭の隅で捉えながら彼女は走り出した。
「もうすぐ森だ!頑張れ」
しっかりとした少年の声が背中を押す。
そう、森にさえ入れば木々のおかげでこのひどい視界もまだマシになるはずだ。
『それにしても』
巧みに仲間の志気を上げる少年の声は、若いとはいえさすがにリーダーらしいものだった。
なんだかそれが微笑ましいというか、嬉しいような気がして戦闘中だというのにバレリアの口元にかすかな笑みがこぼれる。
足下で跳ねる水しぶき。
冷たい雨と不確かな視界。
そんななかにいるとどうしても思い出さずにはいられない過去があった。
『これから先に続く”未来”のためにおまえを助けるんだ』
そう言って、捕らわれていた牢から自分を逃がしてくれた友がいた。
『俺は家族を守るためにここに残る』
たとえそんな風に先手を打たれていたとしても。
たとえ返る答えがわかっていたとしても。
『一緒に逃げよう』
その一言をどうして自分は言えなかったのだろう?
考え始めれば本当に後悔することは数えきれないほどあった。
『おまえの幸運を祈る。バレリア』
揺るぎのない意志をたたえた友の瞳とその言葉を彼女が忘れたことはない。
『未来のために』
ただただ走り続けたあの時、見える未来はなかった。
そして、解放軍に入った今も確たる未来はまだ見えてこない。
それでも。
「ぼやぼやしてんじゃねえぞッ!バレリア」
魔物相手に手間取っていた彼女の目に、そんな罵声を飛ばしつつ剣を持って突っ込んでくる仲間の姿が映り込む。
「行くぞッ」
「おまえに言われるまでもない!」
未来はまだ見えない。
そこへ続く道さえ、まるで霧がかかったように定かではなかった。
それでも。
今、前へと一歩を踏み出す場所はある。
「大丈夫か?バレリア」
「平気です。リーダー」
この人なら、と思える指導者と。
「回復魔法をかけますか?」
「んなもんより、先にこっちを手伝いやがれッ!」
立ち止まるコトを許さない、頼りになる仲間たち。
そう、彼らがいれば。
たとえ未来が見えなくても、私は前に進むことができるだろう。
『おまえの願いに応えられているはわからないが』
今なら、たどり着く先にあるのが正しい未来だと信じられるから。
そして、いつか見せてやろう。
『おまえが望んだように』
これからを生きる子供たちに、明るい未来を。
そのために。
私は生き残ったのだから。
END |
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