【紅葉】
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「紅葉狩りなのは知ってたけどなあ」
 目の前に置かれた竹かごを見つめ、彼はがしがしと頭を掻いた。
 背負うタイプの筒かごは小さな子供一人くらいなら楽々入りそうな大きさだ。そこには縁まで紅葉の葉が詰め込まれている。
「なんで本当に紅葉をわんさか採ってくんだよ!?おい」
「別にいいじゃないか、ビクトール。無邪気で可愛らしい気遣いだ」
 都合のつく者だけ集めて行われた秋の紅葉狩り。
 そこで一緒に行けなかった者たちのために、紅葉の葉をおみやげにと思いついたのは子供たちだった。
 悪くはない思いつきだったが、問題はその量で。
 居残り組がそれぞれ欲しい量を−−−数枚ずつもらったくらいではほとんど減らなかったのだ。
 そして、残ったそれを全部引き受けてしまうのだから…
「てめえはお人好しだってんだよ。バレリア」
 ビクトールはそう言わずにいられない。
 しかし、言われた本人はというと『そうだろうか?』というように軽く首を傾げる。
「別にいいじゃないか。ちゃんと使い途を考えてもらったんだから」
「使い途ねえ…」
 紅葉の詰まった籠を運んだ先はバレリアの私室だったが、ビクトールにはどう考えても使い途なんて思いつかない。
「イモ焼くくらいしか役に立たねえと思うがな」
 寂しいくらいに片づいた部屋の中、わずかに出ていた数冊の本や筆記用具までも棚や引き出しに片づけていたバレリアは苦笑して肩をすくめた。
「せっかく綺麗な色なんだ。もったいないコトを言うな」
「じゃあ、どうするってんだよ」
「こうする」
 言って、彼女は思い切りよく籠をひっくり返した。
 ざあっと音を立てて紅葉の錦が床に流れ落ちる。
「おい!?」
「紅葉の絨毯というのも悪くないだろう?」
 悪戯っぽく笑いながら、ぼっさばっさと紅葉を床に撒き散らしてゆく。
 片づけ魔王の意外な一面にビクトールも思わず呆気に取られた。
「そりゃ悪くはねえが…すげえ思いきったことするな。掃除が大変そうじゃねえか」
 まさに足の踏み場もない状態とはこのことだ。
 この赤い絨毯を靴で踏んでもいいものだろうかとためらうビクトールを尻目に、バレリアは器用な爪先跳びで小さな隙間を移動している。
「私の部屋はおまえの部屋とは違う。これくらい掃き集めるのは簡単だ」
「言ってくれるぜ…」
「さて…こんなものかな」
 床一面を紅葉で飾り終えたバレリアはビクトールの所まで帰ってくると空になった籠をひょいと担ぎ上げた。
「靴で踏みつぶさないように部屋を出てくれよ。ビクトール」
 ごく当然とばかりにあっさり言い放ったバレリアに、
「無茶言うなよ」
 眉をしかめはしたものの、ビクトールは慎重に足を運ぶ。
「空いた時間にとなると、夕食後になるが」
「ん?」
「この紅葉を愛でつつ、一杯というのも悪くないだろう?」
 その言葉にどういう意味があるのか。
 とっさに判断がつきかね、うっかり紅葉を踏みつけたビクトールにバレリアが苦笑する。
「趣に欠ける紅葉狩りになってしまうがな」
「バレリア…」
「だから、踏むなと言っているだろう」
 赤い川をひと跳びして抱きついてきた恋人を受け止め、彼女はやさしく微笑んだ。


 夕食後。
 秘蔵の酒を片手にバレリアの部屋を訪れたビクトールは、部屋の前にずらりと並ぶ女物の靴を見て凍りつくわけだが。
 女性陣vs男一人の戦いの結果は考えるまでもなく、一方の圧勝で幕を引いたという。
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END



*後記**
キノコ狩り、みかん狩り、葡萄狩りetc....
「紅葉狩りって紅葉取ってどうするんだろう?」と勘違いしていた昔。それをテーマに一度、お話を書いてみたかったんですよね。

というわけで、紅葉採りを先導したのは半分勘違い入ったビッキーだったりしますが、これは隠し設定とやらですか?(笑)
そして、バレリアさんについてフォローしておくと、彼女は約束は守る人です。
が、男よりは女子供を、身内よりは他人を優先してしまうのですよ。だから男で身内(♪)のビクトールには諦めてもらうしかない。