【西瓜】
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 年若い少年少女たちが岩場に集まっていた。
 その真ん中で、どうやら非難されているらしい男が一人。
「ビクトール?」
 いつも無遠慮、無敵なヤツが困り顔でいるなんて珍しいコトもあるものだ。
 そんな風に思いながら、バレリアは岩場に向かう。
「どうかしたのか?」
「あ、バレリアさんっ」
「ちょっと聞いてよ!ビクトールってばボクらのスイカ、割っちゃったんだよ」
「スイカ割りしようって言ってたんですけどね…」
「もうどうしてくれるのかしらっ」
 わいわい騒ぎ立てる少女たちの様子に、バレリアがビクトールを見る目は自然と冷たくなってゆく。
「おまえ、何をしたんだ?」
 スイカの盗み食いとか、そんな言葉が脳裏を過ぎらないでもない。
 それに気づいたようにビクトールが嫌そうに顔をしかめる。
「てめえ、変なコト考えてねえか?オレはなあ、ただ手伝ってやっただけなんだぞッ」
「手伝う?」
「そうだ!湖につけて冷やしてたコイツを引っ張り上げるのが大変そうだったから、持ち上げてやってだな…」
「そして、落とした?」
 足下を見下ろしながら、バレリアは言葉を継いだ。ぱっくり割れた大きなスイカからは赤い果肉が見えていた。
 手が滑ったんだ、と言うビクトールをバレリアは呆れて見返す。『ドジだな…』という言葉は声なくしても伝わっただろう。
「代わりのスイカはないのか?」
 尋ねてみるが、みんな首を振るだけだった。
「残りは今日の昼食にデザートで出てたヤツなんです」
「みんなでスイカ割りしたいからって、アントニオさんたちに頼んで1個だけ別にしてもらってたの」
「それは…困ったな」
 呟きに、苛立ちを隠しきれない様子でビクトールが応える。
「困ってんだよ。わかりきったコト言ってくれんなよ!新しくスイカの調達に行くヒマなんてねえし。こいつらは今、やりたいんだとぬかしやがるしな」
「なんだよ、あんたが悪いんだろっ」
「だーかーらっ!謝っただろーがッ」
 険悪になりつつある周りの雰囲気にバレリアは小さくため息をつく。残念ながら、スイカを買いに出掛けているヒマは彼女にもなかった。
「スイカがないのでは仕方ない。みんな、また日を改めてくれないか」
 ホッとするビクトールの一方で、不満いっぱいでいる子供たちに。
「今日は代わりのゲームで我慢してくれ」
 バレリアは苦肉の策としてそんな提案をしたのだった。



 用意する手ぬぐい、2本。
 そのうち一本を使ってバレリアはビクトールに目隠しをかけた。
「絶対、約束だぞッ!わかってんな!?バレリア」
 小声でしっかり念押ししてくるビクトールに彼女は苦笑を返す。
「最後まで残れたらな」
 そう言って立ち上がり、「用意ができたぞ」と声をかける。
 少し離れた所にはやはり目隠しした少女が木の棒を持って立っていた。方角がわからないようにくるくる回された後、少女は慎重に一歩を踏み出す。
 狙うのは地面に埋められた−−−−−−−−”スイカの身代わり”。
 
 しかし、このスリリングなゲームのためにビクトールとバレリアの間で交わされた約束がなんだったのか…知る者は誰もいなかったという。
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END