| [ゆずれないもの]
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どうしても、誰になんと言われようとゆずれないものがあった。 でも、それはあたしが勝手に決めたコトで、だから誰にも何にも強要なんてできない。 「今日は冷えるねぇ」 雪が降るほど冷え込む晩は、いつも元気なピナコばっちゃんも厚手の服の上から毛糸の肩掛けを羽織った姿で機械鎧の整備作業をする。 あたしの方はといえば、やっぱりセーターを重ね着なんかして防寒対策はばっちりだ。 「明日の朝は雪かきが大変そう」 ちらりと窓の外に目をやって言う。 真っ暗な外では雪が吹雪いて、窓枠にも雪が積もりかけていた。 それを見て、ばっちゃんはぶるっと体を震わせた。 「新しい年の一番の仕事が雪かきになりそうだね。ウィンりィ」 「そうね」 眉をしかめるばっちゃんの様子に少し笑って、あたしは応えた。 今夜0時を過ぎれば、新しい年に暦は切り替わる。 見た目には何も変わらない。 でも、一つの節目。 「毎年終わりになってくると、今年も早かったもんだ、と思うもんだね」 「でもホントに今年はあっという間だったって気がする」 「まあ、いろいろあったからね」 「…うん」 田舎のこの町からずっと出ることがなかった自分が外へ出たり。 そう、本当にいろんなことがあった一年だった。 「さあて、こいつをここに留めたらこっちは終わりだ」 ばっちゃんはネジ回しを片手に、小さなネジを機械鎧の足のパーツに手早く埋め込むとあたしの方を見た。 「そっちはどうだい?」 「うん、あと少し。もう仕上がるからあとは動作の確認をするだけ」 「年の終わりギリギリまで仕事なんてすまないね、ウィンリィ」 ちょっと申し訳なさそうに言うばっちゃんにあたしは笑って返した。 「何言ってるのよ。ヒマを持て余しているよりは絶対こっちの方がいいに決まってるわ」 それに、と人差し指を立てて振って見せる。 「割り増し料金もつくことだし♪」 「ああ、飛び込みの仕事なんだ。もっとふんだくってやっても良かったね」 「そうよ」 お互い強気な言い分に笑い合う。 でも、もう夜も更けてずいぶん遅い時間なのは確かだった。 「あたしの方はもう終わるから、先に寝てていいわよ。ばっちゃん」 「後少しなんだろ?」 「これはね。他にもしておきたいことがあるから」 「…じゃあ、先に寝るとするかね」 「うん、そうして」 ばっちゃんはストーブにかけてあったやかんを取って熱いお茶を入れ直してくれた。 「ありがとう」 そうして、おやすみと言葉を交わして、ばっちゃんが寝室に向かうのを見送るとあたしは手元の作業にと目を戻した。 残る作業は本当にそれほど残っていなかった。 最初に決めていた順序の通りにいくつかの部品をはめ込むと完了。 思わず動作確認を念入りにしてしまったが、それも済ませると、まだ今年が終わるまでに数十分の余裕はあった。 『これが本当に今年最後の仕事、になるといいけど』 小さく苦笑して、あたしは少しぬるくなったお茶に口をつけた。 ずっと前、エドとアルが近くに住んでいた時とは変わってしまったコトはたくさんあった。 毎日彼らに言っていたはずの「おはよう」の言葉も、今となっては時々しか使わない。 それでも『朝』は毎日毎日やってきては終わってゆく。 そういうことが本当に数え切れないほどあった。 だから、数えられるモノだけはゆずれない。 それは誕生日とか、こんな新しい年の訪れとか。 新年の決まりきった文句を交わす、それをエドとアルだってしてくれないことにはあたしの新しい年は始まらない。 あたしがこっそり勝手に決めた勝手なルールだけど、それだけは守っていたかった。 『ま、今年はそのせいで3日遅れの新年だったけどね』 今度はどうなることやら。 いろんなところを旅する二人のことだから、あまり期待はしていない。 時計を見るとあと20分ほどで針は0時を指し示そうとしていた。 でも、0時になろうがなるまいが、それはあたしにとってあんまり意味がない。 『さて、寝るかな…』 道具を箱に片づけて、コップを流しで洗う。 後はストーブと電気を消して… と、その時、電話の音が響いた。 シンと静まりかえっていた場所に、その音はドキッと飛び上がりそうなほど大きい。 『ばっちゃんが起きちゃうじゃないっ』 いったい誰よ!? 電話へと慌てて駆け寄りながら、時計の針のことがちらりと頭をよぎった。 あと少しで0時。 『もしかしたら…』 もしかしたら、なんだっていうのよ。 期待してはいけないと思いながらも、期待せずにはいられない自分を感じる。 受話器を取る頃には胸が痛いくらいドキドキしていた。 『どうかこの電話がエドとアルからでありますように』 どうしても、誰になんと言われようとゆずれないものがあった。 あたしが勝手に決めて、だから誰にも何にも強要なんてできないコト。 でも、叶うことなら…その想いがエドとアルともどうか同じでありますように。 A Happy New Year ! |
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| 何か新しい時の節目にはこういうことを考えてるんじゃないかな〜って思って書きました。 電話の主がぜんぜん関係ない人だったらウィンリィ、ぶち切れてそうです(笑 が、大丈夫でしょう!その辺はいつものようにご想像まかせです〜v エドウィンとまではいかないのですが、お互いを大切にしてる彼らが好きです。 2004/12 |