「あ、中尉。これ」
仕事の合間に何気なく差し出されたのは十センチ四方のカード…というか、一ヶ月分の日付が記されたそれはカレンダーだった。
「なんですか?」
仕事のスケジュールに関することだろうかと思いながら、何気なく受け取った私は、そのカレンダーの仕様に思わず目を見張る。 並ぶのは3月の日付。 台紙は春を連想させる淡いピンク色で色づけされている。 しかし…
3月14日のところだけが、白く塗り残されていた。 しかも、なんとハート型に!
それはあまりにもファンシーで、大の男が持つには違和感がありすぎた。
言葉を失う私に構わず、彼は名案だと信じているかのように何故か自信たっぷり、にこやかに笑って言葉を続ける。
「バレンタインのお返しを考えていたんだが、今年は君が望むものをと思ったんだ。欲しい物でも、わたしにしてほしいことでも構わない。好きに書いていいぞ」
ただし、仕事に関わる事は禁止だと言う。 本当にいい歳をして…いや、イイ歳をしているからなのだろうか? とりあえず、この人はなんてことをするのだろう、というのが私の本音。 なにより気になることはといえば…
「これ、ご自分でお作りになったのですか?」 「うまい店で食事というのも悪くないと思うが、それにするなら早めに言ってくれ。予約が…」 「大佐、コレ、自作ですか?」 「中尉、君はいつも遠慮ばかりしているが今度ばかりは…」
「大佐、作ったんですね?」 「………」
別に責めているわけではなかったが、強い口調で断定的に言うと、彼はムッとした様子でふてくされたように顔をそむけた。 私はそんな彼の様子にため息。
『本当にこの人は…』
うっかり受け取ってしまったカレンダーカードを見下ろし、やはりもう一度、ため息がこぼれた。 自分がイベント事に関心が薄いことは自覚している。 恋人というにしてはいつもつれない対応をしているのもわかっていた。 そんな私にきっと彼は彼なりに真面目に考えてくれたのだろう。 まあ、真面目に考えた末がこれではあるが…。 それを思うとこの恥ずかしすぎるカードも捨てられない。
「…一応、いただいておきます」 「ああ、決まったらそれに書いて渡してくれ」
とたんに機嫌を取り戻して仕事に向かう。 そんな彼に対してこぼれかけた三度目のため息をなんとか噛み殺すと、私はカードを見つめて眉間にしわを寄せた。 彼は『遠慮』と言ったが、正直、これ以上願うことなどない。 考えたところで労力と時間の無駄だと…漠然と思う。
『仕方ないわね』
考えるのが面倒で、とりあえず私は目障りな白を周りと同じ色で塗りつぶしておくことにした。そうして淡いピンク色に染まったカードは3月14日の日付当日まで私の机の引き出しで眠り続けるハメになる。
予定外の展開ではあったが、当日、それを見た彼の反応はといえば、『幸せ者』という言葉が実に相応しいと言っておくよりなかっただろうと思う。
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