愛犬

 雨の中、フュリー曹長に拾われ、ホークアイ中尉に引き取られた子犬はとても賢く育っていた。
「すごいんですよ、ハボック少尉。ブラックハヤテ号なんですけど、もうお手もお座りも一通りできるし、『待て』も完璧なんです!」
 小柄な体から元気パワーをまき散らしながら、嬉しそうに目を輝かせて言うフュリーにハボックは「はいはい」と適当な相づちを返した。
 子犬、ブラックハヤテ号の飼い主が一人暮らしのうえ、職務上多忙を極めて残業も多いとなれば、東方司令部への出勤に伴われてくることが日常的なものと化して早数ヶ月が経っている。
 その間、動物好きのフュリーは飽きもせず、ヒマそうな人間を見つけては子犬の成長ぶりを語って回っているというわけだった。
「まだ小さいのに大好きなおやつを目の前にしてもじっと待っていられるなんて本当にスゴイです!じいっとおやつを見つめている目を見ると『ああ、我慢してるんだなー』って感じがしてかわいくて…」
「わかった、わかった」
 このままではいつまでたっても終わらないだろう状況に、ハボックは辟易しながら手を振った。せっかくの休憩時間だというのに、ゆっくり煙草も味わえないというのはどういうことかと思う。
「何度も言うけどな、あの中尉が育ててるんだぞ。そりゃ、ブラックハヤテ号が賢いってのもあるだろうが、子犬の躾くらいわけないだろうが」
「えっ…と、でも、中尉は子犬を育てるのは初めてなんだそうですよ」
 そうおっしゃってました、と言うフュリーをハボックはまじまじと見返した。
「…そうなのか?ためらいもなく引き取ったから、オレはてっきり…」
 てっきり犬を飼ったことがあるんだと思っていたのだが。
 そんな疑問にフュリーも力強く頷き、同意を示した。
「そうなんですよね。なんでも犬を飼ったことはあるそうで、ご両親がその犬の躾けをされていたところは見いていたそうです」
「へえ…」
「でも、ブラックハヤテ号に接する中尉の感じってそれだけとは思えないんですよね。なんだか慣れてるっていうか、自然っていうか…」
 すごいですよね、と素直に感心しているフュリーには思わず苦笑。
「それはもちろん、慣れてるから、だろうさ」
「…え?慣れてるって…でも、中尉は犬の他には何も飼ったことないそうですよ」
「そうじゃねえさ」
「?」
 なら、どういう意味だろうと戸惑う同僚を尻目にハボックは笑いをこぼした。
 自分のようにひねくれた思考を持たないコイツでは、考え到らないことなのかもしれないと気づき、さらに可笑しく思う。
『躾なんてのは言うなれば、鞭と飴を上手く使い分けるってことだもんな』
 それはごく日常的に目の前で繰り広げられる光景に合致する。
「あら、ハボック少尉。なにかいいことでもあったの?」
 ちょうどやってきたホークアイ中尉に穏やかに問いかけられ、「別にたいしたことじゃないんで」とハボックは笑いをおさめながら返した。
 その目にある物が映り込む。
「中尉、その箱は?」
 それは中身が何であるか容易に想像できる見慣れた白い箱。
 中尉は手に持っていたそれを持ち上げ、ちょっと苦笑しながら一つの店名を答えた。
「今日のお茶菓子よ。楽しみにしていてちょうだい」
「それって大佐の好きな店のヤツっすね」
「いい加減、仕事がたまってきてるから。…まあでも、もしかしたら誰かに二人分食べてもらうハメになるかもしれないわね」
 やれやれというように肩をすくめて笑う彼女は凄腕の狙撃手であり、やり手の副官であり、そして…優れた調教師。
 …だと思うのは間違いじゃないだろうと、そばで何かに納得したようにぽんと手を打つフュリーを見ながら、ハボックは思った。

END






12のお題のひとつ「愛犬」

大佐=犬、というの、よく見かけます。
で、どーしようかと思ったのですが、やっぱり「愛犬」といえばコレしかないかと(笑
ありがちで本当に申し訳ない(^^;
結果的には「愛犬」というより別っぽいですが、まあ、いいよね。

2004/3