実際にやってみると、頭で思っていたより難しいコトもある。
「あ…」
流し台のある給湯室で、まな板に果物ナイフ、そしてリンゴを二つ用意したところで、私はふと手を止めた。
思わぬ成り行きから、食後のデザート用にりんごウサギを作ることになったが、これまで一度もそれを作ったことがないというコトに気づいたのだ。
『そういえば…誰かが剥いてるのも見たことがないわ』
そんな馬鹿なと一瞬、思ったが、考えてみると出来上がったモノを食べたことはあっても、それを剥いているのは見たことがなかった。
そういえば、母もりんごウサギを作るような人ではなかった。皮に栄養があるのよ、と言って、くし切りにしただけのものを食べさせてくれたものだ。
しかし、たかが、りんごウサギである。
『皮をウサギの耳みたいにすればいいのよね』
その昔、どこかで見たような気がするりんごウサギの形を思い出してみる。
ちょっと不安がないでもなかったが、まあ、いい。
リンゴを剥くこと自体は慣れているのだ。
『こうやって…』
とん、とん、とん…と手際よく1個のりんごを6つに切り分ける。
『あとは…この辺に切り込みを入れて……そして…あらっ?ど、どうしてうまく耳のところだけ残らないのかしら』
もう一度、果物ナイフで切り直して…とやり直そうとしたら、耳の部分の皮がざっくり削れてしまった。
『………』
軽いショックを受けた。
が、気を取り直すために頭を振ると私は次のくし切りリンゴを取り上げた。
『今度こそ!』
ここをこうして…
『あら、皮はどこまで切って、どこまでくっつけておくんだったかしら…?』
そう思った時点で、失敗。
うっかり薄く切りすぎた部分で、へろりと皮がひっくり返った。
『………』
たかがりんごウサギ、されどりんごウサギということなのか…。
とにかくわかっているのは、こんなもの、決して大佐に見せられないというコトだった!
私は残るリンゴを見つめ、気を引き締めなおした。
「おい、中尉?そこにいるのか?」
閉ざした扉の向こうから、聞き慣れた声がする。
目の前にはいつの間にか山のように増えたりんごウサギ…。
使ったリンゴは2個ではすまなかった。ここまで作っても気に入る形のものが一つもないというのも問題だったが。
なにより、
『これをどうしよう…?』
頭を抱えたくなる状況に、私は息をついた。
「中尉!?大丈夫なのかっ」
扉をたたく音が激しくなる。
残された時間は少なく、証拠隠滅のための方法は一つしかなかった。
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