通信販売

 その日、上官のマスタング大佐はヒマさえあれば、一冊の本を見ていた。
 その本は少し大きめで厚さは薄い。
 仕事の資料とも関係なさそうなのに、熱心見ているのを珍しいと私は思って興味本位から声をかけてしまった。
「なんの本ですか?」
 と。
 そこで顔を上げた大佐は明るい笑みを浮かべて、私の方へとそれを差し出した。この一見、無害そうな笑みが、実はクセモノだと知っている私はつまらない口出しをしたことを早くも後悔し始めていた。
 しかし、大佐はそんな私にかまわず、
「通信販売のカタログだよ」
 ちょうど開いていたページの商品を指さし、楽しげな口調で言った。
「エプロンを買おうと思ってね」
「………そうですか」
 ちょうど視界に入ってきたのは、妙齢の男性が身につけるには恐ろしくファンシーなエプロンの写真で、私は自分の頬が強ばるのを感じた。
 思わず脳裏に浮かびかけた情景を、力強く抹殺する。
「いろいろあって迷うところだ。中尉はどれがいいと思う?」
「…別にどれでも。大佐がお好きなものでよろしいのでは」
 別につけているところを見るわけでなし、フリルだろうがピンク色だろうが、実害のないところでのコトなら自分には関係ない。
 それよりも、たかがエプロンまで部下に選ばせることのほうが問題だ。
 そう思って踵を返そうとしたところで、
「昔ながらの割烹着もいいと思うんだが」
『は?』
 聞こえた単語に思わず、リアルな想像をしてしまった。
「ほら、制服の袖口が汚れずにすむし。懐かしい感じもいいかもと…」
 執務机、書類、割烹着、インク、etc..と日常の必要オプション付きで目の前に浮かんだ光景に気が遠くなりかける。
 私はぐっと気合いを入れ直し、体勢を立て直した。
「ストップですっ、大佐!ひとつ確認しておきたいのですが、今回お買い上げになられるエプロンはもちろんご自宅用ですよね?」
「いや、ここ用だが?たまに夜食を作ったりするだろう。支給されたエプロンもあるが、たまには気分転換も兼ねて明るい色のもいいかと思ってな」
 あっけらかんと言う。
 目の毒、という言葉が私の頭の中を駆け抜けた。
「で、中尉。何か良い助言はあるかね?」
 楽しそうに笑うこの上官はたぶん、きっとかなりの確信犯。
 私は憂鬱な気持ちで彼が広げるカタログに視線を戻し、深く深くため息をついた。
『どうして、こんなにも趣味の悪い商品にばかりマジックで丸印がついているんでしょうか?大佐』
 私はページを捲ってしばらく考え、『これ』と一つのエプロンを指さした。やわらかな山吹色、いたってシンプルな形のエプロンだ。
 大佐は少し不満そうだったが、
「まあ、中尉が選んでくれたのだから、良しとしておくか」
 そんなコトを言ってようやくカタログを閉じてくれたのだった。

 *

 数日後。
「これ、この間のお礼だ。中尉」
 何気なく手渡された紙袋を開けて、私は愕然とした。
 中に入っていたのは先日、大佐が使うために選んだエプロンと同じモノ。
「大佐!?」
「うん、2枚買うとお買い得だったんだ。だが、同じのが2枚あっても仕方がないからな。選んでくれたお礼だ。遠慮なく使ってくれ」
「………ッ」
 他の人にと思ったが、不幸にもソレを押しつけられそうな人間は近くにいなかった。いたとしてもおそらく逃げられてしまっただろうが…。
「大佐、エプロンなら私は他にも持っているので…」
「なんだ?中尉はコレがいいと思って選んでくれたのではないのか?自分がつけるのが嫌なものを選んだとか言うんじゃないだろうな」
 大佐は論点をずらすことにかけては巧みだった。
「いえ、そんなことはありませんが…」
 問題はそうではなくて…と言おうとしたところを、
「なら、いいじゃないか」
 堂々と笑顔で押し切る。
「………」
 よくあるパターンに陥ったことを自覚しつて、私はため息をつく。
「…わかりました。ありがたくいただきます」
「ああ」
 上機嫌で仕事に向かうマスタング大佐に悟られないように、私は注意しながらこれからする手続きのことを考える。
 少なくともあと4枚の追加注文が必要だった。
 思いがけない出費なのが憎らしいが、それなら諦めもつく…と納得するしかない状況に、私はやっぱりまた一つため息をついたのだった。

END






「通信販売」
お揃いエプロン♪というのが書きたくて、さっくり。
実は以前、「りんご」を書いた時から持っていたネタでした。
で、その時、アンケートをしたのを覚えていらっしゃるでしょうか?

Q:大佐のエプロンは何がいいか?ということで

単色シンプルタイプ 28%
ポケットいっぱい機能タイプ 7%
くまさんのアップリケ付き 10%
可憐なフリルタイプ 10%
懐かしの割烹着 21%

28人の方に投票していただけました。ありがとうございますm(_ _)m
今更となってしまいましたが、その結果発表も兼ねてのお話です。

さて、気になるのは追加発注したエプロンをめぐるやりとりです。
中尉は最強で逆らえる人はいないだろーけど、大佐もコワイしね(笑
みんなどーしたんでしょうね〜、わくわく。