いつも見ていたいくらい好きで。
そのくせ、時々、見るのが怖くなるくらい苦手なモノがある。
*
「大佐、何か私に隠している事がありませんか?」
公私の区別なく、わたしの傍らに在るようになった女性はいつも通りに遠慮のない言葉を告げる。
区別がつくのはわたしの呼び方くらいだろうか。
仕事場では決してわたしの名が呼ばれることはない。
それが彼女流のけじめらしかった。
それにしても…隠し事?
いったいどれのことを指しているんだ?
そう思うくらいには、彼女に告げてはいない秘め事を持ち合わせている。
それは告げるまでもないプライベートなことだったり、もしくは、告げたくない隠し事だったりするのだが。
彼女がこういう問いかけをする時は、実に後者への追求であった。
『鋭い…』
そばにいる時間が長いせいだろうか?
それとも付き合いの深さのせいだろうか?
いつもと何も変わらぬように振る舞い、他の誰もが何も気づかないで済んでいても、彼女は『何か』に気づく。
たとえそうとわかっていても、
「別に何も隠し事などないが?」
何を言っているんだ、というように呆れた表情を作って答えるのは、必然。
この時、彼女と目が合わないように微妙にそらしつつ、とはいえ、視線が泳いでしまわないように注意することもまた、習慣だった。
「ロクでもないことを考えていたり、しませんね?」
「していないさ」
密かに、ぐっと腹の辺りに力をいれながら、じっと覗き込んでくる瞳をできるだけゆるやかに受け止める。
彼女の視線はいつもまっすぐで、その色彩に関係なく、輝く瞳はなぜかひどく澄んだイメージを伴った。
それは心が引き込まれるほどに魅力的で。
そして、何もかもが見透かされてしまうような感覚を覚える。
「本当ですか?」
さらに重ねられる問い。
『しまった』と思った時には、答えに一瞬の間が空いていた。
「…本当だ」
こういう時、彼女は逆に何も言わない。
何も言わずに、じいいっと澄んだ瞳でわたしの目を見つめてくる。
いつもは心地よいそれに、拷問めいた精神的圧迫を受けるのは、そう、後ろめたさのせいというか…。
バレたらきっと怒られるだろうという思いのせいだろうか。
『マズイ…』
目を反らしたら負けだった。
しかし、これ以上は彼女の視線に耐えられない。
心の内で何か逃げ道はないかと探るが、何も閃かない。
そしてつい、いつものパターンに陥るのだ。
「大佐…目を反らして逃げないでください」
「何を言うんだ、中尉。逃げるとは人聞きが悪いな」
「大佐、こちらを見てください」
『イヤだ!』
ここまでくれば、隠し事をしていることなど彼女にバレたも同然。
しかし、だからといって、その内容までも告げるわけにはいかないのだ。
そのためにはもう彼女の目を見るわけにはいかない。
アノ引き込まれそうな瞳を見ていると、言わないでいいことまでベラベラしゃべりそうな自分が怖くなる。
「大佐…」
「そんなことより、まだ書類が…」
ごまかそうと続ける言葉は、不意打ちすぎる行為によって葬られる。
「そちらを向かれるとキスできないのですが」
「!?」
こんな場所で何を?と驚きに、思わず振り返る。
そして…
『あ』
至近距離から覗き込んでくる瞳から、わたしは目が反らせなくなる。
「大佐、素直に白状していただきましょうか?」
不敵で、実に魅力的な彼女の笑顔がそこにあった。
*
時々、見るのが怖くなるくらい苦手なモノがある。
しかし、何が一番の問題かといえば、それがいつも見ていたくらい好きなモノでもあるということだったにちがいない。 |
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