数日後。
夜勤時間に合わせて出勤したハボックは、ちょうど帰宅するところだった私服姿の中尉と廊下で出くわした。
ふわりと揺れる白のコート。
襟に付けられた真っ白な毛皮が、着る者にいつになく可愛い印象を与える。
それも、中尉が楽しげに口元をほころばせているからこそ、なのだが。
「ご機嫌ですね。中尉」
「ええ」
「イイコトでもありましたか?」
「そうね、ちょっとあったかしら?」
軽く笑って、「それじゃ、お先に」と通り過ぎる。
そのまま別れてもよかったが、やはり少し好奇心を刺激されて、ハボックは声をかけてみた。
「大佐はなんて?」
「…?」
少し驚いたように振り返った瞳が、『ああ…』というように和む。
彼女はやはり思考が鋭く、聡い。
「この間のことね。大佐が何か言ってた?」
「いえ。落ち込んでただけっすよ」
「そう」
まるでその様子が想像できたかのように、中尉は小さく笑った。
そして、軽いステップでくるりと体を回転させた。真っ白なコートがふわりと広がり、やわらかな弧を描く。
「まるで、てるてる坊主みたいに可愛いな、ですって」
ちょっと困ったように、でも、確かに可笑しそうに口元を緩めて言う。
一瞬、呆気に取られてしまったハボックも、我に返ると苦笑した。
「なんですか、ソレ」
「一応、大佐なりの褒め言葉みたいね」
『アホですね』
という正直すぎる感想を喉の奥で殺しながら、ハボックは「じゃあ」と聞いてみる。
「こないだのはなんて?」
「『血も滴るイイ女という感じだな』」
しかめっ面で律儀に大佐のモノマネまでしてくれた中尉を前に、ハボックは堪えきれずに吹き出した。
「いやあ、すごいっすね」
「ホントに。これだから女性に愛想をつかされるんだわ」
いえ、それはちがうみたいですけど…なんてコトは言わない。
可笑しさに肩を震わせながら、
「まあ、少しずつ練習してるうちにマシになってくるんじゃないですか?」
「そうね。それで落ち着いてくれるといいんだけど」
それが本心からかどうなのか。
いまひとつそうと判断しにくい態度を時折見せる女性に、ハボックは苦笑しながら言った。
「まあ、気にしなくても、なるようになると思いますよ」
そうして中尉と別れた彼はこれから向かうはずだった行き先をちょっと変更することにした。
八つ当たりも情けない相談事も御免だが。
自分が死なない程度になら相手をからかうのも悪くない、と思う彼もまた見かけによらず、やはり強者の一人だったにちがいない。
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