目を開けると薄汚れた白い天井が見えた。
何がどうなってこうなったのか、よくわからなかった。
わからなかったが、とにかく自分がベッドの中にいるというのは理解できた。
「大丈夫ですか?マスタング大佐」
覗き込んできた相手が東方司令部に赴任したての”軍医”と知り、なんとなく状況がつかめる。
どうやら、倒れるか何かして医務室に担ぎ込まれたらしい。
しかし、『なぜ?』と考えて、額がズキリと痛んだ拍子に思い出す。
「あ…」
そういえばセントラルからヒューズがアームストロング少佐を連れて来ていたのであった。
そこに鋼の錬金術師の称号を持つエドワード・エルリックに弟も加わって、狭くはない執務室が一気に騒々しくなって…。少佐によるマッスルボディお披露目から、思わず、勢いよく目をそらした先が壁だったのまでは覚えていた。
…ということは。
思わず赤面しそうになる顔を隠すように、口元を押さえる。
なんて無様な失態だ。
「ヒューズが…」
担いできたのだろうか?
そうでなくても、からかわれて遊ばれそうな状況である。
思わずこぼれた呟きを聞き留めたように、若い軍医の青年が「え?」と顔を向けた。仕方ないので言葉を継ぐ。
「いや、ヒューズ中佐が運んでくれたのかと思ってね」
苦笑しながらベッドから起きあがり、そう聞く。
返ってきた答えは、実に思いがけなくて…。
「いえ、中尉ですよ」
『…!?』
さわやかな笑顔で言い切った相手の顔を思わずマジマジと見てしまう。
この場合、自分相手に名前も略して言う「中尉」が誰を指すかといえば、やはりアノ中尉しかいないだろう。
思いがけないショックで、心身ともに凍り付く。
『か、彼女がわたしを担いでここまで!?』
まさか、と思うが、「あり得ない」と否定しきれない現状が悲しい。
確か、体を鍛えるためにヒマな時はジムに通っていると聞いた。
そのプログラムにバーベル上げとか入っていたら…いたら、不可能ではないのか!?
不整脈で気分が悪くなった気がして、胸の辺りを押さえる。
いろんな不吉な想像が頭の中を駆けめぐったが、それはほんの数秒のことだったに違いない。
軍医が「あれ?」というように首を傾げた。
「すいませんっ、ハボック少尉でした」
この時のわたしの脱力ぶりは言葉では例えようもない。
どっと疲れが押し寄せてきた気がして、もぞもぞとベッドに逆戻りする。
相手の致命的な間違いを怒る気力など既にない。
そういえばここのところ寝不足だったしな…。
かぶり布団を頭まで引き上げたところで、聞き慣れた声が聞こえた。
「大佐、いつまで寝ていらっしゃるんですかっ!さっさと起きてください」
しかし、それはきっと気のせいだということにしておこう。
|
|