【うちわ ..by.中尉】
毎日毎日、暑くてイヤになる。
さすがは夏だと、毎年のことだが思う。
顔には出さないようにしているから、暑さに強いと思われているようだけど、別に強いというほどではなかった。
長袖長ズボンの軍服も、着るときにはウンザリすることもあったがもはや『慣れ』でこなす。
ただそうして涼しくなる季節を待ちわびるのだ。
仕事机に向かい、とりあえず、黙々と仕事をこなすことにする。
これで上官も同じように予定通りのところまで片づくように働いてくれれば、多少、気分も楽になるけれど。
それにしても今日は風もなくて、本当に暑い。
額に汗が滲んできたからハンカチで拭こうとしたら、ふわっと風が吹いた。
ほんのわずかな空気の動き。
でも、それをすごく涼しく感じる。
『風が吹くようになったのかしら…』
顔を上げて風のくる方に目を向け、私は息を止めた。
まともに上官…マスタング大佐の黒い瞳とぶつかったのだ。
「あの…何をしてるんですか?大佐」
「何って見てわからないか?」
「いえ、わかりますが…」
彼が手に持ってぱたぱたと動かしているのは、紛れもなく『うちわ』だった。
「暑いからな」
「いえ、そういうことではなく…」
「少しは涼しいだろう?」
満足そうに笑いながら、彼は言う。
仕事中に何をしているのか、と怒るべきかもしれなかったが、さすがにそんな言葉は出てこなかった。
たぶん彼なりに気遣ってくれているのだろうと思うから。
「涼しいです。ありがとうございます」
「それはよかった」
ひどくうれしそうに満足げに笑う。
そんな彼の笑顔を壊すのは忍びなかったが、ちょっとこのままはマズイと気づく。
「ですが、もう結構ですので…」
「なんだ、嫌だったか?」
あからさまにガッカリした顔。
「………」
「………」
私はひとつため息。
「…いえ、そういうわけでは…」
「なら、もう少しだけ涼しさを堪能したまえ」
「はあ…」
問題なのは涼しさがどうというのではなく、傍目から見たらきっと変な光景だと思うからなのだけど。
上官にうちわであおいでもらう部下がいるだろうか?
しかし、言ったところで、彼はまったく気にもとめないだろう。
逆になんやかやとからかわれて疲れるだけのように思えた。
白いうちわの動きに合わせて小さな風が送られてくる。
でも、本当は…

『暑いんですけど…』

ひと風吹くごとにじりっと温度が上がるような感覚。
とりあえず、熱にやられて顔が赤くなる前にはやめさせようと思う。
END





さてさて、他の人にうちわで扇いでもらうのってなんだか気恥ずかしくないですか?
疲れるだろ〜なあって思って遠慮してしまうし。
でも、大佐は中尉のためなら、そんなのしんどいなんて思わないんでしょうねv
うちわであおぐのを口実に中尉の方をずっと見ていられるしね〜。そんな風景をひとつ☆

掲示板からの転載、改訂です(2004/09)