かくれんぼ...by.大佐


 信じられないことが起こった。


 いや、他の部下たちにソレを言ったら「当然ですよ」と非難の目と共に返されただろうが。
 まさか、と思っていたことが起こったのだ。
 何がかというと…

 ホークアイ中尉がいない…。

 勤務時間中だというのに、定時までには戻ると言い置いて部屋を出て行ったというのだ。
 しかも大きなリュックを背負って!
 そこが一番の問題だった。
 以前、仕事の息抜きに外で昼寝をしていたのを中尉に見つかったことがあった。ちょうど急ぎの仕事が入っていたこともあって彼女をひどく怒らせてしまったわけだ。

 で、次の日、彼女は執務室に大きなリュックを二つ持って現れた。

「寝袋と毛布です。体調をくずされてはたまりませんから、次からはこれをお使いください」

 意外なことだが、セリフだけ聞くと忠実な部下らしい内容だった。
 が、彼女の持つソレは二つあったのだ!

「ああ、こちらは私の分です」
「…?」
「『仕事の途中での息抜きには昼寝が一番だと』」
「…」
「昨日、大佐はそのようにおっしゃいました」

 静かな口調にひやりとするものを感じる。
 その場を誤魔化すため、私は確かにそんなコトを言った。

「今度、大佐がそうされる時は便乗させていただこうと思います」

 冗談だと思っていた。
 中尉のように真面目な人間にサボり…いや、昼寝などという息抜きができるはずないのだ。
 そう思ってすっかり忘れていた。
 が。

 今、中尉はどこにもおらず、リュックも一つない。

 考えるだけで血の気が引く状況であった。
 ハボック少尉から話を聞いてすぐ探しに出たが、どこにもいない。
 私が見つけた穴場のほとんどを知りつくし、つまりは東方司令部内を知り尽くした彼女はどこにいるのか?
 すぐに見つかるような場所にはいないだろう。
 しかし、うっかり誰かに見つかって。
 その寝顔を見られてしまうかもれないし。
 熟睡などしていて不埒な輩に唇を奪われたりなんて、いやそれ以上の可能性とて…皆無では、ナイ。

「………」

 机の上には山積みの書類が残っていたが、手をつける気にはならなかった。
 もうすぐ定時になる。
 帰ってきた中尉にきっと怒られるだろう。
 …いや、そもそも中尉は無事に帰ってくるのか!?

『もう一度、探しに行こう』

 急ぎ足で部屋を突っ切り、ドアに手をかける。
 と、どこからか、ごく小さなくぐもった音が聞こえてきた。

「!?」

 驚いて足を止める。
 小さな音は中尉の机の方からした。
 振り向くと同時にガタンと音がして、中尉の机の椅子が動いた。

「!!」

 ズズ…っと床を擦りながら、椅子が動く。
 そして、今まで椅子のあった場所にひょいと現れたのは細い手と金の…

「ちゅ、中尉!?」

 な、なんてところにいるんだ!
 驚きに目を剥く私にかまわず、机の下に開いた穴から彼女は上半身を覗かせ、ついで全身を現した。
 しかし、そんな所から現れながらもいつもどおりに平然とした顔で私を見返す姿はさすが中尉というか…。
 手に持っている置き時計からすると、先ほど聞こえた音は目覚ましのアラームらしい。その置き時計の指針を私の方に向けて、

「時間ですが、大佐。今日のぶんの仕事は終わりましたか?」
「………」

 ちらりと机の上を一瞥しながら、淡々と聞いてくる。
 誰のせいだと思っているのか、と言ってやりたい気分だった。
 が、言ったところで相手にされないに違いない。


「終わってませんね?」
「…」

 頷いてしまうのは癪で、代わりに深いため息で応える。
 そんな私に中尉は情け容赦なく、予想通りの言葉を告げた。

「大佐、残業してくださいね」
「…わかっている」

 それにしても、悔やまれるのはこんなに近くに彼女がいたということだ!
 もし、見つけていたなら、どうなっていただろう…。

「本当に、いつの間にそんなものを…」

 床下の小さな穴からリュックを引き出す中尉の背中を見つめ、聞く。
 中尉はというとまったく悪びれる様子もなく、ごく当たり前のことのように「この間、エドワード君に作ってもらいました」と答えた。
 本当にいつの間に…!と思わずにはいられない。
 そして、ふと気づく。

「………これ一つだけかね?中尉」

 中尉の秘蔵の隠れ場所はここだけなのか…?
 まさか、と思う私の前で、にっこりと中尉は笑った。

「…はい、もちろんです。大佐」

 その笑顔に、私はしばらくサボるのは控えようと思った。
 そう、次にサボるのは中尉の隠れ場所を他にも見つけてからにしよう。


END






静かに怒り爆発☆
こんな仕返しがあってもいいんじゃないかなー、と(笑
掲示板からのコピー+改訂です。
2003/11