机につっぷして眠る男が一人。
よほど疲れていたのだろう。
自らの腕に額を載せて、熟睡している。
足音を立てて近づいているというのに、ぴくりともしない。
それともタヌキ寝入りをしているのだろうか?
判別がつかないが、私のやるべきことは決まっていた。
彼の腕の下敷きになった重要書類が使い物にならなくなる前に、彼を起こさなければ。
それに、書類の提出期限も迫っている。
「大佐、起きてください」
執務机の前に立ち、静かに告げる。
反応はない。
少し前屈みになって、もう一度、「起きてください」と告げる。
やはり反応がない。
タヌキ寝入りかもしれない…。
しかし、腕と前髪ですっかり彼の表情は隠され、本当のところはわからない。
ほんのすぐそば。
指を伸ばして、前髪を掻き上げてみたらわかるかもしれない。
彼がもうすっかり目覚めているのか、まだ睡魔に捕らわれているのか。
「………」
そこにあるのはほんの数センチの距離。
私は指を伸ばし…
そして、髪に触れる寸前で手を止めた。
「………」
上官の前髪を掻き上げ、目覚めを確かめる。
それは単なる副官でしかない私には到底、分不相応な行為に思えた。
だから、私はいつものように…彼の肩先にそっと触れる。
「大佐、いい加減に目を覚ましてください」
急な目覚めで驚かせる気はないから、静かな声で。
彼の耳元で告げる。
それがたぶん、私に許された距離。
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