距離V...by.中尉


 机につっぷして眠る男が一人。

 よほど疲れていたのだろう。
 自らの腕に額を載せて、熟睡している。
 足音を立てて近づいているというのに、ぴくりともしない。

 それともタヌキ寝入りをしているのだろうか?

 判別がつかないが、私のやるべきことは決まっていた。
 彼の腕の下敷きになった重要書類が使い物にならなくなる前に、彼を起こさなければ。
 それに、書類の提出期限も迫っている。

「大佐、起きてください」

 執務机の前に立ち、静かに告げる。
 反応はない。

 少し前屈みになって、もう一度、「起きてください」と告げる。

 やはり反応がない。
 タヌキ寝入りかもしれない…。
 しかし、腕と前髪ですっかり彼の表情は隠され、本当のところはわからない。


 ほんのすぐそば。


 指を伸ばして、前髪を掻き上げてみたらわかるかもしれない。
 彼がもうすっかり目覚めているのか、まだ睡魔に捕らわれているのか。

「………」

 そこにあるのはほんの数センチの距離。
 私は指を伸ばし…

 そして、髪に触れる寸前で手を止めた。

「………」

 上官の前髪を掻き上げ、目覚めを確かめる。
 それは単なる副官でしかない私には到底、分不相応な行為に思えた。
 だから、私はいつものように…彼の肩先にそっと触れる。

「大佐、いい加減に目を覚ましてください」

 急な目覚めで驚かせる気はないから、静かな声で。

 彼の耳元で告げる。



 それがたぶん、私に許された距離。


END






距離・第二弾♪
このテーマ、好きなんですよね〜。

掲示板からのコピー+改訂。
2003/12