「大佐、起きてください」
すぐ近くから聞こえる声。
半ば心地よい睡魔に意識をゆだねたまま、わたしはその声を聞いた。
「起きてください」
2度目のそれも一度目と変わらず、静かな声で告げられる。
わたしはというと机の上に腕を交差させ、その上に額を載せた格好で自主的にちょっとした休憩を取っていた。
聞き慣れたホークアイ中尉の声はそれを終わらせるモノ。
真面目な副官としては正当な行為であり、妥当な手段である。
しかし、わたしを捕らえる睡魔は本当に心地よく、あっさり手放すには惜しかった。
「………」
ほんのすぐそば。
自分の様子をうかがう視線と気配を感じる。
でも、腕と前髪で顔を隠しているから、本当のトコロは気づかれていないハズ。
うまくいけば、このまま居眠り続行も不可能ではあるまい。
そんなことを考えながら、こっそり目を開けて様子をうかがうわたしの視界がすっと陰った。
『!?』
たぶんそれはほんの数センチの距離。
視界が陰ったのは、おそらく彼女の手がそこにあるからなのだろう。
その事実に、内心、ドキリとする。
ま、前髪を掻き上げられたら、このタヌキ寝入りがバレてしまうかもしれない。
いや、そうではない。問題はそんなことではなくてっ!
「………」
ひどく近くにある気配。
それはもはや慣れた近さだ。
が、この種類の接触は今までに一度たりともない。
わたしは反射的に目を閉じる。
その時間は果たしてどれくらいだっただろうか。
気の遠くなるような時の果てに、
「大佐、いい加減に目を覚ましてください」
肩先にそっと触れる指の触感。
それはいつもと変わらず。
響く声も近すぎるほどに近い場所から、いつもと同じように届いた。
『触れてもいいのに…』
彼女との間にある、この、不思議な距離。
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