行列のできる店...by.中尉


 その店は東方司令部と自宅との間にあった。
 つい最近できたばかりだというのに、朝から晩までいつも前を通るたび店の前にできた行列を見かけた。

「最近、おいしいパン屋ができたと噂になっているが、アレがそうらしいな」

 街の視察に出ていた時、その行列を見たマスタング大佐は実に感心したようにそう言って、ごく当たり前のように体の向きを変えた。

「大佐、どこに行かれるつもりです」
「ん、なに。人々のことを知るためにもふだんの生活に基づいた…」
「残念ながらそんな時間はありませんっ」

 いかにももっともらしいコトを言って、行列の後ろに並ぼうとした(そういうところは確かに偉いと思ったけれど)大佐にぴしゃりと言い放つ。

「そういうことはおヒマな時に、お一人でなさってください」
「しかし、中尉…」
「スケジュールが詰まっているんです。もう子供じゃないんですから、それくらい聞き分けてください、大佐」
「………」

 わざとらしいくらい盛大なため息をついて、ようやく司令部への道を戻り始めた大佐に、私の方こそこぼれそうになったため息を噛み殺す。
 本当にこの人は隙あらば、脇道に逸れようとするのだから困った上司である。
 ちょっとでも甘い顔をするとつけあがるから注意が必要だし。
 だから、私も常に気を引き締めなければ、と思うのだ。
 しかし…。

『あら…?』

 ある日の夕刻、私はこの行列のできるパン屋の前で足を止めた。
 珍しく残業が早く片づいたおかげで、まだ店の開いている時間に店の前を通りかかることができたのだが、珍しく行列に並ぶ人の数が少ない。
 不思議に思って見てみると、『次回、焼き上がりまであと1時間』との貼り紙。

「あと一時間…」

 早くも闇の落ちる冬の夕刻。
 おいしいパンは食べてみたいものの、これから一時間、ここに並ぶのは正直言って気が進まなかった。

「………」

 扉を開けたままの店からは香ばしい匂いが漂ってくる。
 私は、それを振り切るように再び歩きはじめ………結局、数歩進んだところで列の後ろに並んだ。

『たまにはいいわよね…』

 なんとなく、執務室で未だ片づかない書類と格闘しているだろう大佐の姿が頭をよぎった。そんな彼や夜勤の部下たちに差し入れするのも悪くないハズだ、と思う。

『甘い…かしら?そうでもないわよね…?』

 そんな自問自答を繰り返しながらも、喜ぶ大佐の顔が目の前にちらついて店を離れられなくなった私はやはり『甘い』のだろうと…。
 紙袋いっぱいのパンを両腕に抱え、引き返せなくなったところであきらめ混じりに理解した。


END





最近、近所に移動ワゴンでメロンパン販売をしているお店があります。
それが行列のできるお店なのですね。私も一度だけ買うことができました。クッキー生地がふつうより甘めかな。おいしかったです。
で、その時から考えていたネタなのですね〜。
中尉ってこんな人な気がしますv

2004/4改訂up (2003/11 BBS書き込み)