|
今日、何度目かなんて数えちゃいなかったが… 「ため息ばかりつくと幸せが逃げていくって言うわよ」 ホークアイ中尉の苦笑混じりのその言葉にオレは、ちょっとだけ、笑いかえした。 「確かにそうなんスけどね…」 はあ…とまた言葉尻にため息が続き、中尉は仕方がないわね、というように笑った。 「気分転換でもしてきたら?」 「気分転換…」 それができたら、どんなにいいか。 今抱えてる問題は、オレにとってはそう簡単には片づかない重要問題で。 でもそれは、それだけ本気で好きなコができたってわけで。 「中尉に質問なんスけど…」 「なにかしら?」 おだやかに返しながらも、何事にも隙のないこの人がオレの悩みに返す言葉はなんだろうな? 「中尉ってけっこうもててますよね」 「そんなことないと思うけど?」 「プロポーズされたりなんてのも、けっこうあったりして…」 で、けっこう瞬殺的に、丁寧かつ断固たる『お断り』をしていたりして。 相手の性格からしてそんな様子がありありと想像できたのだが…。 「そんなコト、滅多にないわね」 中尉はやはり声のトーンを変えることなく冷静で。 その目が『そんなコトを言いたいの?』とオレを静かに見据えてくる。 わかっちゃいたけど…やっぱり、この人にはかなわない。 思いきって、ホントのホントに思いきってオレは口を開いた。 「その…中尉は、結婚してもいいかなーってグラッとくるようなプロポーズってされたことあります?」 なんっつーバカなコトを聞いてるんだという自覚はあった。 顔に血がのぼってくるのも、感じた。 「…………ハボック少尉?」 呆れたような中尉の視線がイタイ。 耐えられずに、口元から覆うように手で顔を隠した。 「すいませんッ、中尉。今のは聞かなかったことにしてください」 顔が熱い。 オレは途方もないバカだ。 後悔が怒濤の嵐のように押し寄せてきた。 冷静さを取り戻すために、その場を離れようとしたオレに、 「別に聞かなかったことにしてもいいけど。…さっきのあなたの質問の答えは『Yes』ね」 あっさりなんでもないコトのように中尉は応えた。 「え…!?それってどんなヤツでした!?」 ソレに勢いよく飛びつくオレもオレだが。 中尉ほどの人でも気持ちを揺すぶられるほどのプロポーズってのが、どんなものかぜひとも知りたかったのだ。 しかし… 「それは言わぬが花というものよ、少尉」 クスッと笑って、彼女はそれ以上の追求をやんわりとした声と、断固たる意志を感じさせる瞳で拒んだ。 これ以上はさすがにプライベートな領域に踏み込みすぎだ。 「はー…、そうっすよね」 我慢できずにこぼれたため息に、中尉が面白そうに小さく笑った。 「プロポーズしたい相手ができたの?」 「………ええ、まあ……実はそうなんスけど」 「けど?」 「オレ、いっつもフラれまくってるから自信がないっつーか、またフラれたらどうしようってゆーか、もしかしたら…いや、きっと、たぶんまたフラれたりなんか…」 いつになく、どんどこ悪い方へと考えが転がっていくオレの目の前で、パンッ!と音が弾けた。 「ッ!?」 銃声ではない。 それは手と手を叩き合わせただけの、でも大きな音だった。 「こういう場合、誰のものも見本にはできないわね。自分に合わないのを選んだら、それで成功率はゼロになるわ。結局のところ、あなたらしくぶつかればそれでいいんじゃないかしら?」 からかうでもなく、穏やかに中尉は微笑んだ。 「私は、伝える言葉がきちんと本気なんだと相手にわかってもらうのが一番大事なことだと思うわよ」 「中尉…」 凄腕でそこらの男じゃ太刀打ちできないほどの強者だと知っていても、やっぱり女性らしくやさしい人だと中尉のことを感じるのはこんな時だ。 「ありがとうございます」 玉砕の可能性も皆無ではないが、かわいい彼女といっしょにいるためにがんばってみようと思う。 自分自身にカツを入れ、グッとこぶしを握るオレに、 「まあ、ダメだったらその時は飲みにいきましょ。おごるわ」 にっこりと笑って言うそれもまた、たぶんきっと、彼女流のやさしさなのだ…と思いたい。
|