| 賽を振れ☆ | |
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| ■1-笑顔の行方 | |
転がるサイコロの目が【1】と出た瞬間、周囲から野太い歓声が上がった。 あまり感情を表に出すことが少ないホークアイ中尉は、笑顔もまた非常に貴重なものなのだ。 「すごいや、アル♪ 中尉は今日一日、ずっと笑顔にけってーい」 「すげーぜ、兄さん♪」 わくわく楽しそうな兄弟の言葉に、誰もが同調するように喜んでいた。 いや…ただ一人、陰鬱そうな顔のまま、こっそりその部屋から退散した男は除かなければならなかったが。 そんなコトにも気づかぬマスタング大佐は期待を隠しきれない視線でじっと中尉を見つめ続ける。 「中尉、サイコロの目は【1】と出たが…」 今さら『イヤだ』と断れるような雰囲気ではない。 期待に満ち満ちた視線を周囲から受け、中尉はふーっと息を吐いた。 「一日、笑顔でいればいいんですね?それくらい、私はかまいませんが…」 「それでは、今からでも?」 軽く頷き、中尉はにっこりと笑顔を見せた。 そのいつになく華やかで明るい笑顔に誰もが見惚れる。 そんないつもと違った周囲の反応にも微動だにしない中尉は、笑顔のまま上官を見返し、口を開いた。 「大佐。キリキリ働いてくださらないと、後で後悔していただくことになりますよ」 笑顔を裏切り、低く淡々と響く声。 瞬間、水を打ったかのように室内はしーんと静まりかえった。 「ちゅ、中尉…?」 「大佐、あなたが望んだ結果です。文句なんてありませんよね?」 そそくさと部屋から出ていく人間が一人二人と増えてゆく。 それを横目に、マスタング大佐は喉の奥で唸った。 厳しい表情で辛辣なコトを言われるのには慣れている。 しかしながら、明るい笑顔でそれをやられるのは、正直、心臓にきた。 「中尉、わたしが…」 「これ以上、無駄口を叩くヒマなんてありません。それとも、もっとレベルアップいたしましょうか?」 まさに無敵の笑顔であった。 勢いよく首を横に振った大佐はその後、順調すぎるほどの仕事量をこなして、定時に帰宅したという。その横顔が少々やつれて見えたというのは風の噂。 さて。 途中まで楽しそうにそんな二人のやりとりを見ていた兄弟の感想は。 「やっぱり中尉の笑顔ってステキだよね〜♪」 「サイッコーだなv」 そして。 「大佐も意外なとこで抜けてるよな〜」 煙草をふかしながら、そんなコトを言った男もいたとか。 【END】 |
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| ■6-ハリセンと私 | |
「あら」 転がるサイコロの目が【6】と出た瞬間、まるで波が引くように部屋の中から人気が絶えた。 軍人として相応しい、実に見事な状況対応であった。 転がるサイコロを食い入るように見つめながらも、いつでも逃げ出せるように身構えていたおかげだろう。 とはいえ、逃げ出したくても、逃げ出せない男が約一名。 「【6】が出ましたね。大佐」 「そのようだな…」 顔色は悪く、かすかに頬が引きつっていた。 そんな上司の様子にちょっと笑って、中尉は机の上に残されたハリセンを取り上げた。 それを持ってきた兄弟の姿も既になく、部屋の中には大佐と中尉の二人きりになっていたが、そんなことにも中尉が気にする様子はない。 ただ軽く振ったハリセンが『ビュンッ』と音を立てて鋭く空気を切った。 「ちゅ、中尉…」 いくら得意な得物が銃器類で女性であるとはいえ、軍人として相応に鍛えているホークアイ中尉である。 力いっぱいハリセンで叩かれた日には…青あざで済むのだろうか? 覚悟は決めてゲームにOKを出しておきながら、今さらのようにマスタング大佐は危惧を覚えた。 「これでしばきたおしても罪にはならないんですよね?」 にっこりと笑って確認する中尉。 日々の行いを省みるに、どー考えても、無事に済むとは思えなかったが、ここでは頷くよりない。 「それでは…」 言うなり、風を切る音。 ほんのすぐ耳元を通り過ぎたそれに、大佐の体は凍りついた。 しかし、覚悟した痛みはない。 代わりに背後の壁を叩く、痛そうな音が高く響いた。 「中尉…?」 思いきりよく壁をハリセンで叩いた中尉は、満足そうに『ふうっ』と息をついて、苦笑した。 「本当に叩くと思ったのですか?」 「いや…その、約束だろう?」 「大佐は叩かれたかったのですか?」 からかうように告げられたセリフに、大佐は即座に否と答える。 「まさかッ」 その反応に中尉はクスッと小さく笑う。 「非常に魅力的な罰ゲームではありますが、大佐が明日、欠勤などということになったら私も困りますから」 「…コワイことを言わないでくれ」 思わずというように額を押さえて、大佐。 それでも、ホッとしたように肩の力が抜けるのが傍目にもわかる。 そんな彼の耳元を再び風を切る音が響く。 今度、鳴ったのは机を叩く音だった。 「中尉?」 「一応、大佐は叩かないことにしておきます」 「………?」 「ですが、あなたが欠勤にならない程度になら、有り得るかも…ということです」 「------ッ!!」 瞬間、がばっと机に向かった大佐はその後、順調すぎるほどの仕事量をこなして、定時に帰宅したという。 その頬にかすかに走る赤い跡が見えたようだとは風の噂。 さて。 部屋の外、扉の隙間からそんな二人のやりとりを見ていた兄弟の感想は。 「やっぱり中尉ってやさしい人だよね〜♪」 「遠慮せず、ビシバシぶったたけばいいのに」 そして。 「ハリセン…直接、叩かなければ使えるわね」 思慮深い瞳で紙製の得物を見つめ、そんなコトを呟く人もいたとか。 【END】 |
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| 〜賽を振れ☆〜 ずいぶん前に掲示板で書き殴っておきながら、中途になっていたお話です。ごめんなさい(^_^;) 書き始めた時からラストまでの道筋が見えていました。ただ、何パターンかあるのでどうするかなーって思っていて。 今回、2つを選択形式で用意しました。 ちなみに… 2だとやさしい言葉の中に巧みな嫌味を混ぜた中尉にいたぶられ、3だと褒め殺し。そして4と5はそのまんまという…何を引いても大佐にとっては貧乏くじなわけで。 そこまで考えて東方司令部を訪れたとするなら、エルリック兄弟もまた手強いヤツらなのでした☆ |