機械仕掛けの贈り物

 言葉で告げるのは照れくさいけど、伝えたい想いはある。

 * * *

 2月13日。
「よしっ♪これで文句ないでしょう」
 誰に言うでもなく呟き、少女はネジ回しを振り上げた。
 家の中ではストーブが焚かれていたが、それほど室温は高くない。それでも少女の髪を包む赤いバンダナには汗が少し滲んでいた。
「できたのかい?ウィンリィ」
 少し離れたところから作業を見守っていた老婆が、どこか安堵したように息をついて問う。それに少女は満面の笑顔で応えた。
「今度こそばっちり!」
 そう言って、精魂込めて作り上げた『完成品』をテーブルの上に置く。
「どれどれ…ふむ。見た目は何度見ても文句ナシだがねえ」
 機械仕掛けの人形が2体。
 それが『誰』を模して作られたかは、当人たちを知っている者なら一目瞭然の素晴らしい出来栄えであった。
 しかし、見た目だけで満足しないのが彼女らしいトコロ。
「まあ、見ててよ」
 真剣な視線を人形に注いだまま、ウィンリィは人形たちの土台に取り付けられたスイッチを押した。
 流れ出すオルゴールのメロディ。
 弾むようなリズムに背を押されたように、人形がゆっくりと動き出す。
 先に動いたのは左手に佇んでいた少年像だ。黒の衣装に赤い外套を着た少年は、機械人形とも思えない滑らかな動きで右腕を胸に当てて一礼する。
 これこそ人体工学を知る義肢装具師の技術が存分に発揮された成果だっただろう。関節の連結が巧みであるため、動きに違和感が感じられない。
 本物に似せた衣装からして、実在の人物がそのままミニチュア化したかのように見える。
 布製のカバーを被せた顔にはしかめっ面の刺繍。
 独特の愛嬌を持つそんな身長約20センチのミニミニ少年は一礼した後、隣を向いて両手を差し出した。
「ようしっ!ミニエド、その位置キープよっ」
 通称ミニエドの隣に立つのは、甲冑姿のミニ人形。
 と、少年と向き合った甲冑人形の腹部がぱくんと開いた。その奥からせり出してきた板の上にはリボンのかかった小箱が一つ。
 位置はちょうど少年が差し出した両手の間。
 上手く箱を受け取ったミニエドは、ゆっくりと体の向きを変えて正面に向き直る。
『さあ、コイツを受け取りやがれっ』
 まるでそう言っているかのようだ。
 そこまで人形たちの動きを見守って、ウィンリィは満足そうに大きく頷いた。
「かんっぺきね♪」
「悪くないじゃないか」
「でしょっ」
 ウィンリィは小さな両手に挟まれた小箱をつまみ上げ、もう一度、甲冑の腹部にしまい直した。
 人形の姿勢を仕掛けが動く前に戻しながら、
「これを見てアイツら、どんな顔するかしらね」
 ふふっと思わずこぼれる笑みに、老婆がニヤリと笑う。
「そりゃあ、驚くだろうよ。前に比べて格段の進歩だ」
「もうっ、その話はしないでよっ」
 赤くなった頬を誤魔化すように服の袖でごしごしこすって、ウィンリィ。
「それにアレはちょっと動力に問題があっただけなんだから。ま、アイツらが驚いた…ってのだけなら成功だったけどさ」
 今回はそれ以上の出来だと胸を張って言いきる。
 そして、鼻歌混じりの弾むリズムで彼女は人形たちを箱に収めた。運んでいる途中で壊れたりしないように緩衝材をいっぱい詰め込む。
「ほれ、伝票。急がないと今日の便が出ちまうよ」
「うん。えっと、配達先の住所は…っと。んー?」
 伝票に必要事項を書きかけ、ウィンリィはふと首を傾げたものの、悩む時間は短かった。
「ま、いっか。『東方司令部内 エルリック兄弟 宛て』っと」
 いつどこにいるのかもわからない兄弟が、今現在、東方司令部に用事があって滞在していると知ったのは三日前。
 でも。
 今、彼らの居場所がわかるなら。
 2月14日という少し特別なその日を口実に『何か』を贈ってみるのも悪くないと思ったのだ。
 ウィンリィは箱に蓋をする前、最後にもう一度だけ、真っ白な緩衝材に埋もれた人形たちの頭を撫でた。
 そして。
 口に出してはなかなか言えない想いを込めてみる。
『大好きだからね、二人とも』
 恋とか愛とかいうよりも家族を想うのに近いとしても、『大切』と『好き』は本当だから。
『あんまり心配させないでよ』
「ウィンリィ、時間!」
「んっ」
 壁の掛け時計を見上げ、ウィンリィは慌てて箱に封をした。
 急ぎな、と手渡されたコートを着込み、機械人形の入った箱を胸に抱えて勢いよく家を飛び出す。
 吐く息が白い。
 そんな頬を切るように冷たい空気にも構わず、彼女は走り出した。


 贈り物に込める想いのぶんだけ全速力で。

END




〜機械仕掛けの贈り物〜
バレンタインネタ〜とか考えていて、ふと思い立つ。
『ウィンリィとエドもいいよなー』
で、4巻を見て、ますますその思いが募る。
これはもうっ!書いておくっきゃないでしょう。
でも、今回はカップルで、というわけではありませんが。
好きですウィンリィ!中佐も言ったように、元気で明るいイイ奥さんになるだろーな(*^^*)。

さて、自分そっくりの人形にプレゼントを手渡される…こいつは実際、微妙な感覚だと思います。製作&送り主にはなかなか理解できないものかも…ってか、ウィンリィはわからないだろーな、と。
んで、受け取ったエドとアルの反応は…はてさて、やはりビミョーなのではないかと。想像すると楽しいです(笑)。
以下↓はオマケ。本当は上に書いてあったのですが、せっかくのシリアスを崩すのもナンだったので…こっそり会話。




<2月13日 東方司令部内の資料室にて>

「そういや、兄さん、知ってた?」
「んー?なにが」
「明日」
「明日ぁ?」
「あ、やっぱり気づいてない。兄さんらしいね」
「何が気づいてないってんだよ!アル」
「ほら、日付」
「…………あ…え!?」
「うん。2月14日」
「あ、あああああーーーーーっ」
「叫ばないでよ。兄さん」
「そ、そうか。明日は…」
「うん。バレンタインデイ」
「バ、バレンタイン…か」
「宿とここの往復で忙がしかったとはいえ、兄さんってばうっかりしすぎだよ」
「うっかりってゆーか、忘れていたかったってゆーかさ」
「ま、わからなくないけど」
「…来ると思うか?」
「来るでしょ。だって一週間以上、ここにいるし」
「うあああああーっ」
「そんなに嫌がっちゃ悪いよ」
「い、いや、嫌ってんじゃねーけど!ほら」
「うん」
「前のヤツ、爆発したし」
「爆発したね」
「全治二週間だぞ」
「だったね。でも、ずいぶん前の話だし」
「そうだよなっ!あれから何年も経ったし…」
「今回は大丈夫じゃない?」
「そうだよな、きっと大丈夫だよな」
「うん、きっと、ね」
「…………」
「…………」
 沈黙。
「でも一応、箱開ける時は外で開けないか…?アル」
「うん。…その方がいいと僕も思う」


<…なあんて会話があったりなんかしたり>