【pray】




祈りよ、届け

天高く

届け祈りよ


この真紅の

紅く紅く彩られた空を大地を浄化したまえ


祈りよ届け

届け祈りよ



伸ばしても届かない手をのばし、ロイは叫んでいた。
幾度も、幾度も繰り返した言葉を、さらに繰り返して、ロイは叫んでいた。
けれど声は届かない。
紅い空。
紅い大地。
それらがそれ本来の色を取り戻すことは決してない。
どれほど叫んでも。
どれほど手を伸ばしても。
天には届かない。
黒い双眸が空を睨む。歯を食いしばり、手を伸ばし。
天に向け、ただ。

「−−を返せ…!」

ありったけの想いを込めて伸ばした手が、不意に引っ張られた。
天に向けて、ぐいと引き上げられた。
はっとして見開いた目に飛び込んできた、まぶしいばかりの白い光。そして。
声。
「起きてください。朝です」
ロイは驚きのあまり、返す言葉も忘れて、ただ目を見開いた。
真ん丸く見開かれた黒い瞳を、真っ向から見下ろすのは鷹の羽色の双眸。
整った風貌が作るその表情が、冷たくさえ見えるのはあまりに真っ直ぐだから。
その真っ直ぐな視線でロイを見下ろし、ロイの腹心の部下、リザ・ホークアイは言った。
「おはようございます」
そして、握っていた手をすっと離す。
リザが支えていた体重の分、仮眠用ベッドの硬いスプリングが軋み、その時初めて、ロイは自分の姿勢を知った。
夢のままに、天井に向けて伸ばしていた右手に気が付いた。
「あ…」
「昔の夢でも見ていましたか?」
自分の行動に呆れるように、後ろ頭をかしかしと掻きながら起き上がるロイに、尋ねる声が掛かる。その声は平然として、平常。
けれど鷹の羽色の瞳は真摯で、そして少し…
その視線を受けて、ロイは軽く笑って見せた。
「見てたよ。懐かしい景色だった」
そう言うと、真っ直ぐな瞳がかすかに、曇る。真摯さは、そのままに。
「大丈夫ですか?」
声にも帯びる、そのかすかな曇りが彼女の優しさで、だからこそ。
「大丈夫だよ」
立ち上がり、頷く。
朝日の差し込む窓辺へと歩みより、外を睨みつけた。黒い双眸の睨む先に広がるのは、広大な軍施設。
この全てを掌握するのが、望み。
「年越しが夜勤とは、歓迎されていると考えて良いものかね」
皮肉を口の端に乗せると、背後から返って来るのは同じく言い含むような、声。
「そうですね。人にはそれぞれ、やり方というものがあるでしょうから」
涼やかな声を振り返りもせず、ロイの口許が笑む。意を得たり、と。
「ああ、そうだな。やらせてもらおう。私のやり方を」
この視界に広がる全てを、くまなく。意のままに動かしてみせよう。
その真意は瞳の奥に隠し持って。
踵を、返す。
向き合う漆黒と鷹の羽色、二対の双眸。決意と言う名の焔を点し、二人は頷き合う代わりに視線を交わす。
「今年もよろしく頼むよ」
悪戯めかしてロイは笑み、
「ご随意に」
リザは浅く礼を取った。

声張り上げても届かぬ祈りなら、天上まで駆け上り、駆け上がり、届けてみせる。
直接に届けて、やる。

祈りよ届け

叶え願いよ




<fin>





藍葉さま作 「pray」

2004年、年明け早々に藍葉様から素敵なお年賀を頂きました(^^)
もうツボにはまる位置関係の大佐と中尉が描かれていて、幸せ気分を満喫させていただきました。
目覚め際のワンシーンに二人のことが色々と凝縮されている気がしてとても好きです〜v
そして、中尉の彼女らしい優しい気遣いがいいですよね〜。
あとなんといっても大佐がカッコイイんです!
中尉に頼りすぎず、ちゃんと自分で精神的にも立ち上がることのできる「強い男」といいう感じで。
最後の挑戦的なところがまた(>▽<)

本当にとても素敵なお話をありがとうございましたv


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