| 願いごとひとつ【4】 |
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「みんな好きな色を一枚とって、願いごとをひとつ書いてほしいでありまする〜」 場所は作戦会議室。 アイアールがそう言って、長方形に切ってある折り紙の束を机の上に置いた。 それは白からはじまって金色まで色とりどりの短冊たち。 『とうとうこの日が来たか』 くじ引きで七夕企画の責任者になったアイアールの浮かない顔を見て、オレはちょっと笑ってしまった。 七夕イベントのひとつ《きっと叶うぞ!願いごと企画》ってのに参加しようと言い出したのはアイアールだってのにな。 まあ、願いのかなう確率がどこより一番高いってのは悪くない。 それにオレの目の前−−−向かいの席にはユイいて。 うきうきした様子でどの色にしようかと考えている姿は本当に楽しそうだった。 オレはそんなユイを見ながら、ふと目についた薄い水色の短冊を選んだ。 「書くものならマジックでも色鉛筆でもなんでもこの箱に用意してありまする〜」 用意された箱の中にはいろんな色のマジックや色鉛筆、それからクレヨンなんてのもあった。 オレとしては書いた字が見えやすければなんでもよかったが、どうやらユイはちがうらしい。桃色の短冊の上に何色かのマジックとクレヨンを置いて色合いを確かめている。 その様子は本当に楽しそうで。 見ているだけでオレは幸せな気分になってくる。 オレは深く考えるまでもなく、無難な太さの黒マジックを選んだ。 『さて、必要な物はそろったな』 なんの変哲もないように見える短冊とマジック。 でも企画用に用意されたこの2点を使わないと願いがかなわなくなるっていうから、おかしな話だ。 オレが今日ここに来たのはもちろん、ユイに会うためってのもあるがこいつを手に入れるためだったりする。 そう、オレの願いはもうとっくに決まっていた。 『ユイがずっと幸せでいられますように』 何度考えてもそれしか思いつかなかったのだから、仕方がない。 しかし、みんなの前でこれを書くのは少しマズイだろう。 ちらりと周囲の様子をうかがうオレの耳に仲間たちの楽しげな声が聞こえた。 「ぼくは【美しい自然を守れますように】って書いたんだっ」 「なんの。わしは【武器のない平和な世界になりますように】と書いたぞ」 やっぱりな。こいつらはそうくると思ってたぜ。 「えー?ぼくは【昼寝が好き】って書いたんだけど〜」 ま、これはちょっと間違ってるみたいだが。 とにかく、ここであの願いを書いたら、こいつらにからかわれるのは目に見えていた。 だから、書くのは後にしてもう帰ってもいいのだが。 短冊を睨みつけるようにして一所懸命に願いごとを考えているユイがオレは気になった。 こいつはどんなことを願うんだろう? …ってまあ、だいたい予想はつくけどな。 「ユイ殿、まだ書いてなかったでありまするか〜?」 書き終わった短冊を集めていたアイアールに声をかけられ、びくんと顔を上げるユイ。 その顔はなぜか真っ赤だった。 「…う、うん。ちょっとどうしようかなーって」 「みどもはてっきり漫画家か声優になりたいと書くのだと思ってたでありまするが」 実はオレもそう思ってたんだが。 ちがうのか? ユイは少し焦ったように、 「あ、あのねっ、もう少し考えて後で書こうと思うんだけど。それで自分で笹につるしに行こうかなって」 そんなすごいコトを言った。 思わず椅子からずり落ちそうになりながら、オレはユイが企画の詳しい内容を知らないことに気づいた。 案の定、アイアールが反対の声を上げる。 「ユイ殿、笹のある場所を知ってるでありまするかっ!?」 「え、と…知らない」 その答えにアイアールは『そうでありましょうとも!』とこの七夕企画の説明する。 「笹が設置された場所がふつうじゃないのでありまするよ。極寒ネットのなかでも最高峰と言われるの山の頂上なのでありまする〜」 「……………」 「その栄誉ある”短冊お届け責任者”にみどもが抜擢されたでありまする〜」 赤い印のついた紐を握りしめるアイアールの大きな目から流れ落ちる滝のような涙は後悔の証かそれとも喜びの証なのか。 ユイはうーんうーんと唸っていたが、やがて何かを思いついたかのように手慣れた様子で短冊を書き始めた。 オレは向かいから何気ないフリをして覗いてみたりする。 【みんなとずっと一緒にいられますように】 なんだか、すごくユイらしい。 思わず口元がゆるんでしまう。 みんなとってことは、オレともそう願ってくれてると思っていいハズだよな? すごくうれしいぞっ♪ この後待っている極寒地獄なんてヘでもないぜっっ。 「オレは先にあがらせてもらうぞ。アイアール」 勢いよく椅子から立ち上がったオレにアイアールとユイが驚いた顔をする。 「シ、シンクロ殿!?短冊はいいでありまするか〜?」 「オレのは自分で持っていくからいいんだ」 「で、でも、危ないって…」 心配顔のユイにオレは自信たっぷりに笑ってみせる。 「平気だ。ユイ」 今なら、雪山だろうが灼熱砂漠だろうが笑って渡れそうだ。 オレは短冊とマジックを忘れず持って会議室の出口へと向かった。 そこに意外な声が飛んでくる。 「待って」 ユイの声だった。 驚いて振り向くオレにユイが笑う。 「やっぱりあたしも自分で持ってくわ♪」 意外な言葉と輝くような明るい笑顔にオレの心は奪われていた。 だから。 いっしょに行くのが危険だってコトとか、いつ自分の短冊を書くかっていう問題に気づいたのはユイと出掛ける準備をしている時だったりする。 【ユイがずっと幸せでいられますように】 それが彼の短冊を飾ったひとつの願い。 END |