贈り物 W by.シンクロ】
 クリスマスが近づいてくる。
 毎年、この時期は周囲の熱気に影響されてか、なんとなく気分が高揚してくるもんだが…。
 今年はなぜかイライラした。
 その理由がわからなくて、苛立ちはさらに募ったが、
「ここのところ、ユイ殿はいっつも忙しそうでありまする〜」
 それを聞いて、『あ…』と思った。
 ユイは忙しそうにしているのか…というか、最近ずっとユイを見ていないことに俺は気づいたのだ。
 コレクターズとして共に過ごすようになってから、気づけば一緒にいるのが当たり前で。
 顔を合わせないことがあったとしても、それが何日も、なんてことはこれまでなかった。
「ユイは何をしてるんだ?現実世界で忙しいのか?それとも…」
「え?ああ、そのー、ユイ殿でしたら、現実世界のクリスマスパーティの準備とか、そのっいろいろあるみたいでありまする」
 アイアールは、本当に忙しい、というのをアピールするみたいにぶんぶん手を振り回しながら答えた。
「そうか」
 なら、仕方がない、か。
 今のところ事件もなく、コムネットも落ち着いているし。
 クリスマス当日には必ず会えるにちがいないのだから。
 それ以上深く追求しなかった俺は、その時ユイが何をしていたのかを知らなかったし、彼女が何を考えているのかなんて思いもつかないでいた。


 だから、たぶん余計にたくさん驚いたのだ。


 クリスマスパーティも半ばになった頃、ユイがパーティ会場に持ち出してきた大きな…等身大はあろうかという巨大クラッカーを見て、俺は本当に驚いた。
 自分だけでは支えられないようで、ジャギーに運ぶのを手伝ってもらっているのを見ても、大きいだけではなくて重さもあるようだった。
 周りのヤツらも驚いたり、そのあまりの大きさに笑ったりしているくらいデカイ。
 そんな周囲の反応に満足そうに、
「みんな、驚いたわね♪」
 にっこり笑ったユイは楽しそうな声で言う。
「これはあたしからみんなへのクリスマスプレゼントよ。ちなみにウィルス作♪しっかり目を開けて楽しんでね♪♪」
 気になる一言に『ええっ!?』と思った時には、バッと照明が消え、周囲は闇に落ちていた。
「いっくわよ〜っ!」
 ユイの声が響く。
 間違ってクラッカーを当てられたりしないか、と体を固くした…なんてことはなかった、と言えばウソになるだろう。
 闇の中で一瞬、緊張の空気が走ったのは確かだ。
 しかし、派手な音と共に飛び出した金と銀の輝くリボンはまるで流星のように頭上へと走り、途中で小さな光の粒となって舞い散った。
 いつの間にか、天井の所々にボールのような小さな照明が浮かび上がっていて、いつまでも止むことのない光の雪をきらきらと輝かせる。
 感嘆の声と拍手、パーティ会場はさらに盛り上がりを見せた。
「音楽を」
 と合図をして、手を差し出すコントロルへアンティが素直に応えたのも、その場の雰囲気のおかげだろうか。珍事の一つにはちがいない。
 すべての照明がついてしまえば消え失せてしまう輝きを、俺は惜しむようにじっと眺めていた。
 だから、すぐには気づかなかったのだ。
 自分に声をかけるヤツがいることに。
「ね、シンクロってばっ」
 小さな声。ツンと袖をひっぱられて初めて気づいた。
「…っ?ユ、ユイ?」
 ついさきほどまで会場の真ん中にいたユイがすぐそばにいた。
 しかも、なぜかうつむき加減だ。いつもまっすぐ相手の顔を見て話をするユイにしては珍しい。
「ユイ、どうかし…」
 具合でも悪いのかと声をかけそうになった俺の手に押しつけるように、細長い包みが一つ。
「シンクロには去年もらったから」
 青いリボンがついていた。
 バカみたいに俺はそれがなんなのかわからなくて瞬きを繰り返したが、「クリスマスプレゼント」と小さな声で告げられ、ドキリとした。
 そんなものを誰かからもらえるコト、を俺はこれまで一度も想定したことがなかった。
「俺に…?」
「シンクロに気に入ってもらえるかわからないけど、よかったら…」
 信じられない、という想いがぐるぐると頭の中を駆けめぐった。
「あ、ありがとう、ユイ」
 手にした重みが心地よかった。
 ユイがくれるものなら、なんだってうれしかった。
 もしかしたら、今までにこれほどドキドキしてわくわくしたことはなかったかもしれない。

 そして。

 包みを解いた俺は、驚きに思わず目を見張った。
「これは…」
 まったく予想もしていなかったモノがそこにはあった。
 細長い金属製のソレは俺がウォーウルフだった時に愛用していて、今も非常時には活躍してくれるサーベルだった。
 しかし、ソレはいつも使っているものとは少し違っていた。
 まず、汚れなどひとつもなくきれいで、まさに新品の様相をしていた。
 なのに…
「手に馴染む…」
 初めて手にしたばかりだというのに、今使っているものとなんら変わりなく…いや、もしかしたら、それ以上にそのサーベルは手に馴染んだ。
「シンクロの役に立つものがいいかなあって思っていろいろ考えたんだけど、これしか思いつかなくて…。でね、機能がパワーアップしてるのはもちろんだけど、手で持つ部分もシンクロの手に合うように調節してくれてる、みたいなんだけど」
 どうかなあ、と少し不安そうな目をしてユイは俺を見上げた。
 そんなユイは本当にかわい…いや、ユイが俺への贈り物を一生懸命考えてくれたのだということが伝わってきて。
 俺は…本当にバカだと思うが、うれしさのあまり、すぐには言葉が出てこなかった。
 勢いよく頷いて、「ありがとう、ユイ」と言うのが精一杯で。
 サーベルの感触を確かめるように何度も持ちかえる俺は、まるで大好きなおもちゃを与えられた子供のように見えたかもしれない。
 でも、ユイはそんな俺を見てうれしそうに破顔した。
「気に入ってもらえてよかったわ」
「ああ。すごく気に入った。これからはこいつでしっかりおまえを守ってやるからな、ユイ」
 自然と口元に広がる笑みに、ユイも笑って応える。
「頼りにしてるわよ。シンクロ」
「ああ、頼りにしてくれ」
 そのまま俺たちは並んで舞い踊る光を眺め…俺はこのサーベルの作者が誰かということに気が回らなかったばかりか、自分が用意していたプレゼントのことまですっかり忘れてしまったのだった。
 パーティ終了の合図と共に、ユイを追いかけて走り出していた俺はかなりマヌケだったにちがいない。



END


幸せほのぼの〜♪なのでした。
そして、ひっそりこっそり大奮発してくれたウィルスさんはいい人だと思うのです(笑

                                   .2005/12/26

掲示板より転載 (2006/06)