【ハロウィン  by.シンクロ

 十月の半ば頃、誰かが言った。
「もうすぐハロウィンね」と。
 とりたてて気にする必要もないような一言だった。
 だが、それをきっかけにコレクターズみんなでハロウィンの日に仮装パーティをしようという話になった。
 内心どうしたものかと戸惑うオレに、
「あ、シンクロはそのままでもいい感じよね♪」
 なんてユイに言われた日には、オレは地の底深くまで落ち込む勢いだった。
 ウォーウルフの姿になっているというだけでもサイアクな気分だっていうのに、それがさもどうでもいいという風に流されてしまうのは…
『どうせ、オレはウォーウルフでわんちゃんだよ』
 こんな毛皮ふさふさの状態は狼男そのまんまで、うってつけといったところだろう。しかし、だからといって、この格好で喜んでパーティに参加できるかといえば、複雑な気持ちだった。
『いや…』
 参加なんてしたくもない!というのが正直なところだ。
 だから、ハロウィン当日は欠席の理由を適当に伝えて、別荘ネットでも誰にも知られていない建物の中にこっそり隠れるなんて子供じみたことをしてしまったわけだが…
「さっさと行くわよ。シンクロ」
「ア、アンティ…っ」
 どうして見つけられるんだ、というのは未来予測の能力を持つ彼女に対してはきっと愚問だろう。
 だが、それならそれで、オレの考えくらい見ぬけそうなもんじゃないか?
 そう思って見返すオレに、彼女はふふっと小さく意味ありげに笑う。
 今日の彼女は黒衣の魔女の仮装をしているせいか、いつも以上に神秘的で、ある種の迫力があった。
「みんなで楽しむせっかくのお祭りなんですからね。ズル休みなんて許されないわよ」
「え??」
 なんかその言い分がヘンってのはこの場合、突っ込むべきか?
「それにわたしの迎えじゃ不服だっていうなら、ほら…」
「?」
 アンティの視線に促されて視線を動かし、オレは一瞬、息が止まった。
 扉の陰からぴょんと飛び出してきた相手の姿に目が点になる。
 ふわふわの茶色の髪。
 その頭の上にはまっすぐにピンと生えた茶色の耳があった。
「へっへ〜ん!今日のあたしは狼女よっ」
 驚いたわね、と実に楽しそうに笑う少女がそこにいた。
 そうして、ユイはふわふわの毛皮の手袋をした手をのばし、オレの腕にその細い腕を絡めた。
「狼チーム結成〜♪」
「…はあ?」
 ユイはすぐに行こうとぐいぐい引っ張るが、オレにはわけがわからない。
 戸惑いながらユイについていくオレに、アンティが笑いながら説明する。
 これから仮装内容でグループに分かれてゲームをするのだと。
「なんで…ユイは狼女なんだ?」
 まさか、オレとチームを組むため…とか?
 まさか、まさかだが、もしかして…。
 そんなことを思うオレの前でユイは、
「狼の仮装って一度やってみたかったのよね♪やっぱり思ってたとおり、ふかふかであったかいし、とがった耳もかわいいし、素敵よね」
 無邪気に笑いながら答えた。
 それは実にユイらしいとしか言いようがなくて、オレは苦笑するよりない。
 だが…
「シンクロもけっこうふかふかよね〜。あったか〜い」
 と、ぎゅっと抱きつかれたときには、もう本日何度目ともわからないが、目が点になった。
「ユ、ユイっ」
「シンクロってぽかぽかしてるね」
 ぽかぽかというか、なんだかそんなのはあっという間に通り越して、暑くなってきたような…。
 すべてのプログラム機能がせわしなく動いて、限界に挑戦している感じがするんだが。
「ユ、ユイ、みんなが待ってるから、早くパーティ会場にいかないとなっ」
 こんな予定ではなかったはずなのだが。
 隣にいるユイは満面の笑顔で。
「………」
 こうなっては仕方がない。
 ユイの姿を見た時からきっとこうなるだろうことはわかっていたんだ。
 もしユイにパーティに行こうと誘われたら、たとえ彼女が狼女の仮装をしていなくても、オレはきっと断れなかっただろう。
 だが。
「よかったわね、シンクロ。狼役もひとりじゃなければ、もうさみしくないでしょ」
「…っ」
 にっこり婉然と微笑みながら告げられたアンティの言葉に、オレは凍りつく。
 ちょっと待て、アンティ!
 まさか、まさか、そんなことをまさかユイに…
 オレがパーティに行かないのは狼の仮装(?)を一人でやるのがさみしくてイヤだとかそんな理由だなんて…
「もう、アンティってば、そんなのどうでもいいじゃない」
 いや、どうでもよくない。
「あ、あのな、ユイ」
 どうでもよくない、ん、だが、
「どうかした?シンクロ」
「ええと…あれだ…」
 いったいどう説明したらいいんだ。
 自分が狼の姿のことで拗ねていたのは確かなわけで…
「………」
「シンクロ?」
 不思議そうに首を傾げて見上げてくるユイは…文句なく、かわいかった。
 それは間違いなく、本当で。
「まあ…いいとするか」
 拗ねるのも、悩むのも、深く考えるのも。
 その時間がもったいないしな。
 今は目をつぶるとしよう。

 それでも、だ。

 そんなオレを見て、
「賢い判断ね」
 すべてを見透かすように余裕の笑みを見せるアンティにはちょっと一矢報いてやりたかった。
 そういえば、今日はハロウィンだ。
 ふいにひらめいた言葉が口をついて出ていた。
「Trick or Treat?」
 鞄も何も持たないスリムな魔女さんが、まさかお菓子なんて持ってないだろう?
「あら」
 案の定、アンティはふいをつかれたみたいにちょっと目を見張り、
「キャンディでいいかしら?」
 にっこり笑って、包装紙に包まれた丸いキャンディをひとつ差し出したのだった。
 なんてあっけないほどの…惨敗。
「………」
「すごく甘いから覚悟してね」
 この時ほど、自分の甘さを呪ったことはない。
 きっとこのキャンディは殺人的なほど甘いに違いない。
 覚悟を決めておそるおそるキャンディをつかむオレの横から、その時、軽やかな声が響いた。
「Trick or Treat?」
「…え?」
 驚いて目を向けると、そこにはいたずらっぽい笑みを浮かべたユイがまっすぐにオレを見ていた。
「だから」
 だから、と楽しそうに笑う。
「お菓子くれなきゃいたずらするわよ?シンクロ」
 その笑顔に、一時、目を奪われた。
 その言葉の意味とか。
 そこにある彼女の意図とか。
 そのほかにも思うことはイロイロあったわけだが。
「…これで、いいか?」
 オレはアンティからもらったばかりのキャンディを差し出すので精一杯で、今の自分が毛皮の厚いウォーウルフの姿だったことに心底感謝した。
「ありがと♪シンクロ」
 うれしそうに楽しそうにユイが笑う。
 だから、まあいいか、とオレも思う。
 たまにはウォーウルフの姿の恩恵に与るのも悪くない。
 そう、魔女の悪巧みだか、親切心だかに乗ってみるのも…たまにはいいだろう。
 一年に一回だけの。
 今日はお祭りの日だからな。
 だが。
「さあ!次はウィルスを誘いに行くわよ〜」
 それだけは勘弁してくれ、ユイ。




ハロウィンの一コマです。
えーといつ書いてたのかなあ?…たぶん一年前??
…な感じで、いきあたりばったりな仕上がりになってしましましたが、幸せにあたふたしているシンクロさんの様子を想像して楽しんでいただけるといいな(^^

あ、ふと思いつき。
ぜひともこの人たちに仕事場のウィルスさんとこへ突撃してもらいたいもんです。で、シンクロだけしっかり怒られるんだよ、きっと(笑
↑で、SSも追加です。
                                  ..2006/10