目が覚めると、変わっていた。
「どあ〜っ!」
まず気づいたのは、なにげなく視界に入ってきたけむくじゃらの手。
懐かしいとほのかに感じるような、見覚えのあるその手。
夢か?いや、プログラムソフトは夢なんて見ない。
じゃあ、視界か、どこかの認識プログラムがおかしくなったのか…?
おそるおそる顔のほうにその手をやって、俺は思わず叫び声を上げていた。
*
なんておそろしいコトが起こったんだ!
混乱寸前の俺がまっさきに駆け込んだのは、ひとつの研究室。 「なんですか、あわただしいですね。シンクロ」
イヤそうに眉間にシワを寄せて、顔だけ振り返る相手に、俺はいっきに足の力が抜けた。
そう、俺が駆け込んだのはウィルスの研究室だった。
それにしても、なんでこうもこいつは常に冷静で、無情なんだ…。
一時期、グロッサー四天王として共に過ごしたことがあるから、よくわかってはいたが。 「なにって、おまえ、今の俺を見て言うことはそれだけか…?」
頼りになりそうでホッとするというよりは、あまりに無情で涙が出そうだ。 「ああ、懐かしい姿になってますね」
そう、今の俺はコレクターズのシンクロではなく、ウォーウルフの姿になっていた。 「で、それがどうしかしましたか?」 「………」
なんでこいつを頼ろうとしたんだ、俺は…。
後悔することこのうえないが、このまま帰るわけにもいかない。
それにしても声を出すのに、かなりの気力を振り絞る必要があった。 「目が覚めたらいきないこうなってたんだ。原因はなんだと思う?すぐに元に戻るだろうか。ま、まさか、ずっとこのままなんてこと…」
口を開けば、堰を切ったかのように心配事があふれて止まらなかった。
そんな俺にウィルスのヤツは遠慮がない。 「思い当たりそうな原因はないんですか?」 「………………ない」
何度も何度も記録回路がすり切れそうなくらいには考えた。
今も、もう一度考えてみたが、ここしばらくの記録をさかのぼってみても、何かアヤシイウィルスに感染したとか、そんなことに出くわした覚えは…ナイ。
ウィルスはふむ、とあごに手をやり、 「一応、調べてみますが、それでは原因がわかるのに時間がかかるかもしれませんね」
そう言いつつも、手慣れた様子で俺のサンプルデータを取り、 「まあ、バグルスやウィルス以外で考えられることと言えば…ソレは一度変身して、なじみのある形状ですからね。あなたの中に残っていて、ふとしたことでウォーウルフの形状が現れるということも考えられるのでは」
俺にとってはおそろしいすぎるコトをさらっと告げる。 「それじゃあ、まるで俺がいつウォーウルフになってもおかしくない体質だって言ってるみたいじゃないかっ!」
「みたい、ではなく、そう言っているのですが?」 「………っ」
言葉もでないくらいにショックだった。 「今のところ、姿形が変わっただけで、実害はないようですし」
ちょっと待て! 「ある!実害ならあるに決まってるだろうっ!!」
だから、焦ってるし、ここに来たんだろうが!
声を荒げる俺にかまわず、ウィルスは相変わらず冷静だった。 「では、自分の意識を保てず暴れるとか、コムネットへの破壊活動をするといった危険があると?」
サイバースコープの向こうに隠された目が鋭く光ったようで、俺は背筋が冷たくなるのを感じた。 「そ、それはないっ」
もちろん、そんなことがあるはずがない。
あわてて、ぶんぶんと頭を振ると、ウィルスは肩をすくめ、これで話は終わりだとばかりにモニターへと向き直った。なめらかにキーボードを打つ音が研究室に響き始める。 「では、調べておきますから」
それで終わりなのか、と聞く気力は残っていなかった。
結局最後にはコイツが解決策を見つけてくれると知っていても、ここに来たことを海より深く後悔せずにはいられない。 「よろしくな…」
イヤに足が重くて、動かすのもおっくうだった。
またこんな姿になってしまって、ユイやみんながどんな顔をすることやら。
考えるだけで気が滅入って、のろのろした足取りで立ち去りかけた俺に、ウィルスの言葉が投げかけられる。 「シンクロ、あなた、ウォーウルフだった時に良い思い出でもありましたか?」 「………はあ?」
俺の返事はすごく気が抜けていたことだろう。
仲間を傷つけ、ユイと戦ったウォーウルフだった時のことなんて、思い出したくないことばかりだ。
意外すぎる…というより、なんて質問をするんだ、コイツは! 「もしかしたら、と思ったんですよ。あなたがウォーウルフの姿になりたいと望むことがあったとしたら…」 「ないっ!それだけはありえんっ!!」
そんなことは絶対にありえない。
それだけは自信をもって断言できた。
しかし、返ってきたウィルスの言葉はといえば、なんとも失礼なもので。 「まあ、あなたがそう言うなら…そういうことにしておきましょう」
まさに疑り深いヤツらしいセリフだと思った。
ただ、コイツのことをやっぱりすごいヤツだ、と俺が思い直すまでにそれほど時間はかからなかった。
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.2005/10/03
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