アイアールは丸くて大きな目をいつもより更に大きく見開いて、ユイを見た。
「それに見覚えがないかとは、どういうコトでありまするか?」
「あのね、このペンダント、今日のお昼頃に宅配便で送られてきたの」
 差出人は犬養博士になってて。
 でも、さっきお礼を言ったら博士は自分じゃないって。
「じゃあ…結局、”差出人不明”でありまするか」
「うん」
「気持ち悪いでありまするね。いっそ捨ててしまったほうが良くないでありまするか?」
「やっぱりそうした方がいいのかなあ…」
 可愛いデザインが気に入ったものの、アイアールの提案はもっともなコトで。
 同意しかけたユイの前にシンクロがどこか慌てた様子で割り込んできた。
「ちょっと、それはも、もったいないんじゃないか?ユイ」
「うーん、それはそうなのよね。けっこう素敵なデザインだし」
「せっかくタダなんだし、もらっておけばいいじゃないか?」
「でも誰がくれたのかわからないままってのは…ちょっとね」
 ユイは苦笑しながら、ペンダントを首から外した。
 そんな彼女のそばで考え込むように腕を組んでいたアイアールは、
「それでは贈り主がわかれば、問題ナシってことでありまするか?ユイ殿」
 そんなコトを言ってくるりと宙返りをした。
「え?ええ、まあ、そうよね」
 相手によっては、返品の可能性もあるけれど。
「ならば、贈り主を探してみようではありませぬか」
「お、おいっ!アイアール」
「おや?シンクロ殿はこのペンダントが焼却炉行きになってもいいでありまするか」
「……………っ」
「でも、探すって言ってもどうやるのよ?アイアール」
「それは………そうでありまするねー」
 ムムムと唸ったアイアールはすぐに何かを思いついたようにぽんと手を打った。
「アンティ殿に占ってもらうというのはどうでありまするか」
「あっ、そうか。そうね」
 アンティは未来予測の能力の持ち主だから、探し人の捜索には合わないかもしれないけれど。もしかしたらわかるかもしれない。
 視線をめぐらし、ユイは部屋の反対側にたたずむアンティを見つけた。チャイナドレスに似て体に沿う服は珍しく鮮やかな真紅色だった。
「アンティ」
 近づきながらそう声をかけ、ユイはふと違和感を覚えた。
「あら、ユイ。どうかした?」
 いつもどおり大人びた微笑みをみせるアンティ。でも、いつもの何かが足りない。
「…って、そう言えばアンティ!?なんであなた、ここにいるわけ?」
「あら、わたしがここにいてはいけなかったかしら」
 困ったような顔をする相手に「そうじゃなくてっ」とユイは大きく手を振る。
「だって、今夜はコントロルとデートじゃなかったの!?」
「…コントロル?」
「だって、クリスマスの夜はアンティと二人で食事だって。もう予約も入れたんだってコントロル張り切ってたのに……まさか、すっぽかしたの?」
 おそるおそる問うユイにアンティが返したのは穏やかな苦笑。
「そうじゃないわ、ユイ。彼に予定が入ったの」
 だから、このパーティにも来れないってわけ。
 それにね、ユイ。
 そう話しかける声は限りなくやさしい代わりに、目が笑っていなかった。
「わたしがコントロルと二人で食事なんて、どうしてする必要があるのかしら?」
「……………アンティ、もしかして、何かした?」
 無言のままにっこり笑うアンティ。
 と、突然、大きな音をたてて扉が開かれた。
「アンティ!!」
 大声で名を呼び、飛び込んできたのはなんと話題の主コントロル。
 しかし、彼の服装はというとおよそパーティ会場に似つかわしくなく…いや、普段着にもほど遠いほどボロボロに破れたうえに泥にまみれていた。
 ぎょっとして息を呑む一同を無視して、大股でフロアを突っ切った彼はアンティの前まで来ると、
「なんとかぎりぎりセーフだな。約束のモノは手に入れたぞ」
 そう言って問答無用でアンティの手を取った。
「ちょ、ちょっと、コントロ…」
「時間がないから、急ぐぞ。アンティ」
 その言葉を最後に、二人の姿が一瞬にして消え失せる。
「なんというか…あわただしい二人でありまするね」
 目をぱちぱちさせながら言うアイアールにまだ呆然としたままユイも頷く。
「なんだったわけ?あれは…」
「さあ…。結局、アンティ殿には占ってもらいそこねてしまったでありまする」
「あーっ」
 慌てて扉の方へ目をやるものの、二人の姿はどこにもなくて。
「どーしよ。アイアール」
 戸惑うユイにアイアールは軽くため息。
「…こうなったら、もう一度最初から考え直してみるでありまするよ」
「最初からって…?」
「配達の差出人は犬養博士でありまするよね」
「え、ええ、そうよ」
「ということは…」
「ということは?えーと?」
「犬養博士に関わりを持つ人物かもしれない、というコトでありましょう」
「そっか!ってことは、いろいろ聞いて回ったら贈り主がわかるかもしれないんだ」
 さっそく聞き込みに行こうと踵を返したユイは、突如現れた壁に顔をぶつけた。
「いったた…シ、シンクロ?」
 ごめん、と謝りながら、赤くなった鼻を押さえる。
「す、すまん。大丈夫か?ユイ」
「平気平気」
 そして、笑ってそのまま行こうとした腕が引き留められる。
「?」
「あ、あのな、ユイ」
 贈り主は探さない方がいいと思うぞ。
「え?なんで?」
「それはその、もしかしたら贈ったヤツは自分からだってことをおまえに知られたくなかったかもしれないじゃないか」
 真剣な顔でそんなことを言うシンクロにユイは首を傾げた。
「なんで?」
「そこまではわからないが、ほら、偽名を使ったってコトは自分の名前を書きたくなかったからだろうし」
「そう、なのかな…?」
 シンクロの言うコトも一理あった。
 じゃあ、そのままにしておいた方がいいんだろうか?
 うーんと考え込むユイの肩が後ろからぽんと叩かれる。
「なーに深刻な顔してんのよ。ユイ」
「え?あ、フリーズ」
 振り返り、半袖半ズボンという寒そうな服装にユイは反射的に身震いした。
「さ、寒くないわけ?」
「ぜんっぜん。それよりさあ、レスキューのヤツ知らない?」
「さっきまでそこに………あれ?どこに行ったんだろ」
「いないんなら仕方ないね」
「なに?どこか具合が悪いの?」
 急ぐとか?
 ユイの問いに「そういうわけじゃないんだけど」とフリーズは苦笑した。
「けっこう外に長くいたからさ。熱出たりしないように処方しといてもらおうかと思ったわけよ」
 もちろん、あたしじゃなくて。
 こいつに。
 指さされたジャギーは驚いたように飛び上がる。
「オ、オレはどこもなんともないぞっ。フリーズ」
「でもなんか顔が赤いみたいだけど?」
「あ、やっぱりユイもそう思う?」
「顔が赤かろうが、青かろうが熱なんて…」
「どれどれ…」
 強情を張るジャギーの額にフリーズは自分の額をくっつけ、そして、飛び退くようにして離れた。
「なーにが熱がないって?めちゃくちゃ熱いじゃないのよ」
 非難するような声にジャギーは顔を赤くしたまま、口をぱくぱく動かす。
「なによ?」
「……………だからっ、これはその…」
「ん?なによ」
「…………」
 声を失うジャギーを見かねたように、そこで助け船を出したのはシンクロだった。
「その辺の椅子にでも座って少し休んだら調子も戻るんじゃないか?フリーズ」
 コイツはけっこうタフなヤツだからな。
「そ、そうだぜ、フリーズ。少し休めば元通りだからよ」
「んー、まあ、それならいいけど」
 でも、近いうちにちゃんとレスキューに診てもらってよね。
 そう言って、ふっと何かに気づいたようにフリーズはユイを見返した。
「あれ?あんたが手に持ってるのって…」
「コレ、知ってるの?」
 思わず身を乗り出したユイの迫力に押されるように、フリーズは一歩後ずさる。
「あ、ああ…」
 こないだウォーウルフが…じゃなくて、シンクロが買ってたヤツと同じだね。
 その言葉に一瞬、沈黙が落ちる。
「な、なんですってえ!?」
 それ本当なの?フリーズっ。
 今にも噛みつかんばかりの勢いに、フリーズは体をのけぞらせながら頭を縦に振る。
「た、たまたま見たのよ」
「ちょっと、どういうコトよ!?シンクロ」
 ユイは勢いよく振り返り、愕然とする。
「って、どこ行ったわけ?シンクロは」
「それはたぶん…逃げたでありまするね」
「なんで逃げるわけ!?」
「そういうコトは本人に聞いてほしいでありまする〜」
 ぶんぶんと両手で振り回されたアイアールは目を回しながら言う。
「そうよ。探さないとっ」
 それでなんで嘘ついたか聞き出してやるんだからっ。
 鼻息も荒く、彼女はそう言ってパーティ会場を飛び出して行った。


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