| 「まいったな…」 彼は呟く。 ユイの元に届いた差出人不明のペンダント−−−それは紛れもなく彼が送ったものだった。 名乗り出なかったのは彼なりの理由があったから。 しかし、バレてしまったからにはいつかその説明をしないといけないわけで。 思わず逃げ出した自分自身を情けなく思いながら、彼は唇を噛んだ。 『おまえにはいろいろ世話になったから、その礼なんだ』 だが仲間たちと話合って、おまえへのクリスマスプレゼントは趣向を凝らしたパーティってコトにしようって決まってたからな。 オレ一人だけこういうのを用意するのも変かと思ったんだ。 そんな言い訳をちゃんと用意して、言う練習もした。 なのに、いざとなるとユイの前でなんでもない風を装える自信が…なかった。 「キツイ、な」 言いようのない苦い想いに彼は顔をしかめる。 本当の理由はもっと単純で明快すぎるモノだった。 『オレがプログラムソフトだから』 ユイとは違う世界の住人だから。 そんなコトはよく理解しているつもりだった。 しかし、ショッピングネットのショーウィンドウでユイに似合う首飾りを見つけた時、それを現実世界のユイに贈るにはネット内の擬似マネーではなく現実の”お金”が必要だというコトに気づいた。 なんとかお金を用意して商品を手に入れ、発送手続きをとろうとしてまた問題にぶつかった。彼のアドレスや連絡先はコムネット内で用意されたものにすぎない。それでは発送の必要事項を満たせないというのだ。だから、仕方なく犬養博士の名前と住所を借りた。 その時、ふだんは考えない”現実”を嫌というほど思い知らされた気が、した。 「ユイ…」 告げることのないだろう想いに胸が痛くて。 『オレはどうしていいかわからなくなる』 途方に暮れた目をして、彼は夜空をあおいだ。 * 走る胸元で銀の翼が跳ねる。 それを視界の隅で捉えながら、ユイは思った。 『なんで、シンクロは本当のことを言ってくれなかったんだろう』 どうして、このペンダントを送ったことを知られたくなかったんだろう? 『どうして?』 すごくうれしかったのに。 この気持ちを贈ってくれた相手にちゃんと返したかった。 それがいきなり”差出人不明の不審物”なんてモノになってしまって。 不安と混乱、不快な気持ちといったものにプレゼント同様、その気持ちまで汚されてしまった気がした。 「でも、もし本当にシンクロがくれたなら…」 理由を聞いた後に、やっぱりちゃんとお礼は言って。 それから、何かお返しをしたい。 「考えてみたら、彼にはいっつも助けてもらってるものね」 それに引き替え、自分が彼に何かを返せたことがあるだろうか? 『シンクロはいつも笑ってくれてるけど』 何か、確かに自分が相手を喜ばせられたと思えるコトをしてみたい。 そのためには、相手に何かを贈るというのはいい方法かもしれない。 今の季節ならマフラーとか手袋とか。 腕時計、なんてのもいいかもしれない。 それでこっそり送りつけて、驚かせるの。 「送って…」 彼女は思わず足を止めていた。 何かが変、だった。 「あ、れ?どこに送ればいいんだっけ…」 もちろん、犬養博士のところ、よね。 「それで…」 それで…どうするの? 呟く声が震えていることに彼女はさらに戸惑う。 そして、ようやく突き当たった一つの事実に顔を歪める。 「あたしってば………バカじゃないの?」 現実世界の品物をシンクロに贈れるはずがない。 スキャンしてパソコンに取り込むという方法もあるけれど、それは自分の望むコトとはどこか少し違う。 「ほんとにバカ…」 ふっと目から涙がこぼれた。 「わかっていたはずなのに…」 なんでこんなコトくらいで涙が出るんだろう? まるで道を見失った迷子のように、彼女はあふれる涙を袖口で拭うのだった。 NEXT |