「メリークリスマス!」
 グラスを合わせて笑顔でかわす言葉。
 いくつものクラッカーが派手な音を立てて弾け、七色の紙吹雪が飛ぶ。
「それにしても、おっきなツリーねえ」
 パーティ用に貸し切られたワンフロア。
 その天井ぎりぎりの高さにまでそびえるクリスマスツリーを見上げて彼女は感嘆の声を上げた。
 人の背丈の三倍はあろうかという大きさもさるものながら、白い雪やキラキラ光る飾りの配置といい見事な出来だった。
「ふっふっふ。すごいでありましょう」
 丸い体をのけぞらせてアイアールが言う。
「うん。すごい、すごい」
「みどもとエコ殿で飾り付けたでありまする」
 と、もみの木の上から赤い髪の少年がぴょんと顔を出した。
「すごいだろー。ユイ」
「あーっ。エコってば、危ないわよ」
「平気平気」
 そう言って、エコは再び緑の海に潜るようにしてどこかへ行ってしまった。
「でも二人でこんな大きなの、よく用意できたわねー」
「おいおい、オレも手伝っただろ」
 ふいに響いてきた低い声。
「シンクロ!」
 みんなそれなりに正装しているものの、タキシード姿の彼は長身なだけに目を引くものがあった。
 そう、赤い蝶ネクタイ一本のアイアールとはやっぱり雰囲気からして違う。
「えーと、その、シンクロもツリーの飾り付けやったんだ?」
 なんとなく緊張してしまう自分に戸惑いながら、ユイはシンクロからツリーに目を移した。
 当のシンクロはそんな相手の様子に気づいているのか、いないのか。
「いや、飾り付けはやってないが。この木を選んでここまで運ぶのはやった」
 けっこうくたびれたな、と苦笑する。
「って、これ…一人で運んだの?」
「最初はジャギーのヤツが手伝うって言ってたんだがな」
 アイツ、急にキャンセルしやがった。
 眉間にシワを寄せ、憤慨したように言うシンクロにユイは首を傾げた。
「ぶんぶんおじさんが約束破るなんて珍しいこともあるものね」
 敵対していた時はいざ知らず、けっこう面倒見の良いジャギーである。
 だからこそ不思議に思ったユイにシンクロは「あれだ」と窓の外を指さした。
「あれって……え!?」
 思わず目をこすってしまう。
 ちらちらと雪の降る戸外に見えるのは遠くにある雪山…ではなくて。
「なに?アレ」
 何度見直しても、それは巨大な雪だるま以外の何物でもなかった。
「フリーズとジャギーの仕業だ」
 言われてみれば、何か小さな影が二つ、雪だるまの上を移動している。
「フリーズとジャギーって、あんなとこで何してるわけ!?」
「何って…雪合戦とか、スキーみたいなコトをして遊んでるでありまするよ」
「こ、こんな夜中に!?」
 驚くユイにシンクロは肩をすくめた。
「いいんじゃないか?けっこう楽しそうだしな」
「そうそう。今日はクリスマスですもの」
 楽しければなんでもOKですわ。
 そう言って、ケーキののった皿を差し出したのはレスキュー。
「メリークリスマス。ユイちゃん」
 今日のケーキもお料理も自信作なんですの。
 たくさん召し上がってくださいね。
「じゃあ、これって全部、あなたが作ったの?レスキュー」
「ええ。どうぞ食べてみてください」
 白い生クリームに苺の赤が鮮やかな、いたってシンプルなケーキ。
 しかし、フォークで切り分けて口の中にいれるとやわらかな甘さが広がった。
「んーっ、おいしい♪」
 体感などかなりリアルに感じられるようになったコムネット世界でも、味覚についてはまだまだ開発途上にあるものが多い。そのなかでもレスキューの自作だというケーキは本物そのものの味がした。
 素直な賞賛を口にしたユイの様子にレスキューはうれしそうに笑みをこぼす。
「よかったあ」
 実はこれ、ウィルスさんとの共同開発なんですよ。
「ええっ?ウィルスと!?」
「ウィルスさんには味覚に関する感覚プログラムや伝達プログラムを分析してもらって、それから料理一つ一つのメモリの重さなんかもできるだけ軽くなるよう調節してみたんです」
「ほえー、なんかよくわかんないけど。すごいわね」
「まあ、いくら軽いといってもやっぱり食べ過ぎは体に毒ですけれどね。フォロウさん」
 その言葉に遠くにいたフォロウがギクリと手の動きを止める。バイキング形式なのをいいことに、彼の皿には山盛りの料理がのっていたのだ。
「んと、でもそのウィルスの姿が見えないけど?来てないの?」
 ぐるりとフロアを見渡して問うユイにレスキューは表情を曇らせた。
「ご招待はしたのですけど。まだ来ていらっしゃらないんです」
「あー、それなら多分、まだ仕事中だと思うぞ」
 また仕事の山にかかりっきりになってるって、ジャギーが言ってたからな。
 そう口を挟んだシンクロにレスキューは軽くため息をついて肩を落とした。
「お仕事なら仕方ありませんわね」
 せっかく完璧に仕上げましたのに。
「まあ、そのぶんユイちゃんは楽しんでいってくださいね」
「ありがと。レスキュー」
 にっこりと笑顔を残し、去ってゆく後ろ姿を見送って。
「でも、レスキューがあのウィルスと仲がいいなんて知らなかったわ」
 思わず呟いたユイの言葉に、アイアールが律儀に説明を返す。
「意外でありまするが、レスキュー殿がフリーズのことでいろいろ相談に行っているうちに仲良くなった、というコトらしいでありまするよ」
「へえ、そうなんだ」
「ところでユイ殿」
「なに?アイアール」
「今日は素敵なペンダントをしているでありまするね」
 ケーキを食べていたユイは一瞬動きを止め、そして、「あーっ」と声を上げた。
「い、いきなりなんでありまするか。ユイ殿」
「そうっ!ペンダントなのよ」
 勢い込んで指さす胸元に光るのは銀色の翼。
 すっかり忘れていた問題を思い出し、彼女はアイアールに詰め寄ったのだった。


 NEXT