クリスマスは特別な日なのだと彼女は力説した。
 ケーキやたくさんの料理を用意して、みんなでパーティをする。
 それはすごく楽しくて、心弾むコトなのだとうれしげに笑う。
『そんなものですかね』
 日頃から騒々しさよりも静寂を好む彼は同意しかねるとばかりに、眉間にシワを寄せて応えた。
 それにパーティなどやりたい時にやればいいわけで。
 何もクリスマスの日にやる必然性も感じなければ、それを特別のコトだとも思えない。
 そんな彼を彼女はパーティに誘った。
『そうだ!ウィルスさんも来てみればわかりますわ』
『は?わたしは別に…』
 しかし、彼女は乗り気がしない彼のことなど無視して話を進める。
 集まるメンバーやパーティの始まる時間を告げて、
『ウィルスさんも絶対来てくださいね』
 にっこり笑って言った。
『絶対…ですか?』
 もし仕事が入ったら行けないと思いますが。
『でもパーティは遅くまでやってますし』
 仕事が片づいてからでいいですから、来てください。
 お待ちしてますから。
「本当に勝手なんですから」
 思わずこぼれた呟きで彼は我に返った。
 無駄な回想に時間を取られていないで、さっさと目の前の仕事を片づけなければ。
 今日はクリスマス。
 なのに、彼は研究室を離れることができないでいた。
 まだまだ構築途上にあるコムネットである。様々な問題が起こるとそのほとんどは原因究明のために彼の分析能力を必要とした。
 たとえそれが俗に言う特別な日だろうとかまわず入る仕事の山。
「いいんですけどね」
 招待されたパーティはもうとっくに始まっている時刻だ。
 それに、こうなることは早くから予想できていた。目の前にある仕事はとうていパーティが終わるまでに片づくとは思えないほどの量で。
「別にそれほど行きたかったパーティでもないですからね」
 なのに、いつもより一所懸命になって仕事に取り組んでいる自分に気づき、彼は苦笑する。
「まあ…」
 少しは行ってみても良かったでしょうか。
 彼女には待っていると言われてしまいましたしね。
 そんな言い訳じみたコトを考える彼の耳に来訪者を告げるベルの音。
「やれやれ。また配達人ですか」
 扉は開いてますから、勝手に置いて行ってください。
 また仕事がメールで配送されてきたかと珍しく嫌気を覚えながら、彼は言う。
 しかし、響いてきたのは、
「あらあら、忙しそうですわね。ウィルスさん」
 どこか呑気さを感じさせる声。
 彼は目を見開き、勢いよく振り向いていた。
「あ、あなたは…っ」
「あらあ、そんなに驚きました?」
 にこにこと笑いながら、彼女は抱えていた小さなクリスマスツリーを机の端に置いた。
「いつまで待ってもいらっしゃいませんから、こちらから来てしまいましたわ」
 あっ、お湯をお借りしますね。
 勝手知ったる様子で隣の部屋に入ってゆく相手に呆気に取られながら、
「仲間たちとのパーティはどうしたんです?レスキュー」
 彼は問う。
「あら、もちろん出ましたわ。ウィルスさんと考えて作ったお料理も好評でしたのよ」
「それは良いのですが……聞いているのはそんなことではなくて」
「ああ、パーティですか。もうお開きになりましたの」
「聞いていた時間より早いですね」
 怪訝な面持ちで眉をしかめた彼の前に、湯気の立ったティーカップが差し出される。
「お仕事が忙しいのはわかりますけど、少し休憩にしませんか?」
 そして、ツリーとは別に持っていたバスケットから彼女は料理を取り出した。
 それは彼女から相談を受けたウィルスが苦心して作り上げたレシピを元にしたものだ。
「ウィルスさんにも食べていただかなければ意味ありませんものね」
「レスキュー…」
「お仕事中ですからお酒の代わりにこれで」
 乾杯しましょうと掲げらえたティーカップに彼は小さく笑う。
 殺風景な研究室に小さなツリーが一つ。
 掲げるのはシャンパングラスではなく、あたたかな湯気の立ち上るティーカップ。
 いつものお茶会と同じようでいて、少し異なる光景に。
『まあ、こういうのも悪くはない…ですね』
 今日は特別な日、なのですから。
「乾杯!」
 触れあう陶器の小さな音。
 それは静かな時間に淡い色を落とすような…そんな音だった。


 END