冷たく凍えた空気が好き。
 遊びに行くなら熱い海より、厚い雪の積もった山がいい。
 そんな想いに同調してくれる人が少ないコトはもうよくわかっていた。
 そう、あたたかい建物の中より雪降る外の方が好きだから。
 だから、一人で遊ぶ。
 大きな雪山を作り、雪の像なんてものに挑戦してみる。
 するといつの間にかそばにきていた老人が像のデッサンについてあれこれ口を挟んできた。
 それは面倒ではあったけれど、一人で考えがまとまらないのに比べたら、まあ悪くない。
 でも、そういう時に嫌でも実感してしまうのは自分の不器用さだ。
 何度も繰り返して指示を出されても、相手の望むように形を作り上げることができない。
「もう無理だってばっ」
 やけっぱちの呟きが口をついて出てしまう。
「しょうのないヤツじゃのお」
 まあ、いいわい。
 おぬしの好きなようにやってみるがいい。
 呆れたように言って、彼はあたたかな部屋の中へと戻って行ってしまった。
 それを呼び止めるすべを彼女は知らなかった。
「仕方ない、か」
 また一人になって、少しだけ落ち込んでいる自分に気づく。
 でもまあ、こんなのはよくあるコトだ。
 自分で自分にかつを入れ、改めて雪像作りに取りかかる。
「やっぱり、作りやすい形がいいわよね」
 なら、この辺を崩して作り直してっと…。
 そうして思いきりよく石像に蹴りをくらわせた後で、肌に伝わる空気の振動に嫌な予感を覚える。
「って……、げっ!」
 ぐらり、と傾いだ大きな影。
 それが雪像の頭部だと直感で理解できた。
 このままでは生き埋めになるとわかっていても、避けるには時間がなくて。
 目をつぶってくるべき衝撃に備えた。が。
「おい、大丈夫か?フリーズ」
「へ?え、え?」
 聞き覚えのある声におそるおそる目を開けてみると、そこには大きな背中。
「って、ジャギー!?あんた、なんでこんなトコにいるわけ?」
「なんでって…」
 その。
 ジイさんに言われてだな。
「ジイさん?」
「ほら、えーと、ピースだ。コレクターの中でも一番口やかましい年寄り」
 その瞬間、ぼすっと音がしてジャギーの頭に大きな雪玉がヒットした。
 思わず振り向いた目に、窓辺でちょうどバズーカ砲のようなモノを肩から下ろす老人の姿が映る。
『しかも、地獄耳だ』
 唇で刻まれた言葉にフリーズは吹き出す。
「ところでな、フリーズ。こいつはどうすりゃいいんだ?」
 言われて初めて、ジャギーの支える巨大な雪玉に気づく。
 それは彼女を生き埋めにするはずだった雪像の頭部に違いなくて。
「あ、ああ…それは下に投げてくれたらいい」
 もう最初からやり直すからさ。
「助かったよ。ジャギー」
「別にいいってことよ」
 ぶっきらぼうな返事を返してジャギーは雪像に目を向けた。
「で、どんな形に仕上げるんだ?」
「?もしかして、手伝ってくれんの?」
「ん?当たり前だろ」
 なんのためにここに来たと思ってるんだ。
 さも当然とばかりに言って、ジャギーは崩れた雪をまとめにかかった。
 どこからか持ってきたシャベルを使ってがっしゅがっしゅと雪をかく。
 その様子に彼女はサングラスの下で目を細めた。
 別に一人でも平気だけど。
 こういうのも悪くない、かな。
「おい、これからどうするんだ?」
「えっとね、無難な形がいいと思うんだけど…どーしようか」
「無難?…つったらアレじゃないのか?」
 顎に手を当て、ジャギーが言う。
「やっぱ、アレ、よね」
 雪だるま。
 二人声を揃えた言葉に笑い声が重なる。

 
 冷たく凍えた空気が好き。
 そのために一人ぼっちになってしまうのは仕方ないけれど。
 それでも笑いあって。
 雪の中をいっしょに転げ回れるような。
 そんな誰かがいてくれたなら、それはもっと素敵な時間だと初めてわかった。


「フリーズ。どうしたんだ?」
 雪まみれの顔を上げてそう聞く相手に彼女は小さく笑った。
 いつの間にか闇に覆われた空には、星が輝いていた。
 いったいどれくらいの時間こうしていたのだろう。
「なあ、今夜はクリスマスだったよな」
「ん、ああ」
 なんだ今さら?
「なんだかみんなで乾杯したい気分になった」
 だから、中に入ろう。
 つかんだ大きな手はひやりと冷たかった。
「おっ、おいっ!走ったら転ぶ…」
「転ばないように走ればいいさ」
「無茶言うなよ。フリーズ」
 言ったそばから転んだジャギーに彼女は笑いながら、手を差し出す。
『ありがとう。ジャギー』
 分厚いコートに手袋。
 それから帽子とマフラーも。
 きちんとした物を今度探しに出かけよう。
『特注サイズのおまえのために』
 そんな自分自身の思いつきに満足しながら。
 彼女は冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 END