*** eleven window5 * from yui ***-------------------------*


 まるで製作者の性格を表したかのように綿密に作られた障壁を、やわらかな雲の扉でも押すようにして少女は通り抜ける。
「こんにちわ〜♪ウィルスさん」
 とんとん、と弾むリズムの歩みに金の髪が揺れる。
 いつもどおり眉間にシワを寄せ、コンピューターに向かい合っていた部屋の主はそんな彼女にちらりと一瞥を投げただけで、
「あと一時間、かかります」
 無愛想な声でそう返した。
 その様子からは少女が大事そうに抱えた花束に気づいているとも思えない。ただただ目の前の仕事を処理するコトだけに彼の神経はあるようだった。
 しかし、少女はといえば、冷たくさえ見える態度にもまったくめげることなく鼻歌混じりに上機嫌のまま、勝手知ったる様子で隣のデータ室から花瓶と水とを持ってくるとブーケのリボンを解き、花を花瓶に生けた。
 丈の短く切られた花々が小さくて丸い花瓶の中で賑やかに広がる。
 それを来客用のテーブルの上に置いて彼女は満足そうに微笑み、役目を終えたリボンたちを手に取った。


 一時間後。
 キーボードを打つ音が止むのと入れ違いに生じたのは一つのため息。
「これは嫌がらせですか?」
 特に怒っているという響きはない。ただ片方の眉をあげて、困ったように見返してくる相手に少女は悪戯っぽく笑う。
「お仕事の邪魔はしてませんわ♪」
「確かに…手を止めるほどの邪魔ではありませんでしたが」
 椅子から立ち上がった拍子に重みで揺れた自分の髪を感じて、彼は軽く眉を寄せた。キレイに三つ編みされ、リボンでまとめられた髪はいつもより重力の影響を受けているようだ。
「少し休憩にします」
 あきらめ混じりの吐息をついて、来客用のテーブルへと歩み寄る。
「じゃあ、お茶の用意しますね♪」
 と、にっこり笑って立ち上がりかけた少女を彼は引き留め、椅子に座らせた。
 頭のリボンは軽く引いただけで一瞬にして解け、色素の薄い髪は波立つこともなく元の髪型へと戻ってしまう。
「まあ、とてもお似合いでしたのに…」
 残念そうな少女の声に、彼は皮肉げに口の端を曲げた。
 神経質そうな細い指に幅の広いレースとピンク色のリボンをかけ、彼は無言のまま少女の金髪を一束すくいあげた。
「あなたの方がお似合いですよ」
 これでどうです?というように差し出された手鏡に自分の姿を見つけ、少女はうれしそうな笑みをこぼした。
「ありがとうございます♪ウィルスさん」
 まるで可憐な花のように髪の上で結びあげられたリボンがふわふわと揺れる。
 パステル調のその髪飾りは男よりも、彼女のような少女にこそ似合う代物だったにちがいない。 


*------------------------------------------*** END ***