「なんであんなに怒るかなあ」
ただ『ワンちゃん』って呼んだだけじゃない。
それなのに、怒って部屋を出て行ってしまった相手に彼女は首を傾げた。
そんな彼女を見て、
「ナ〜ニを言ってるでありまするか。ユイ殿」
呆れかえった声でそう言ったのはすぐそばを飛んでいたアイアール。
「シンクロ殿が怒るのも無理ナイでありましょう?」
丸くて短い腕を組み、独り納得したように頷くアイアールに、
「えー?なんでよお」
ユイは「ぜんっぜん、わかんない!」と正直に告げた。
するとアイアールは苦悩を表すように大きく目をしかめながら、盛大なため息をついてみせた。
「あっ、なによ。アイアール」
「ユイ殿にはデリカシーというものがナイでありまする」
反射的にユイの腕は動いていた。
瞬間、どぐっという鈍い音といっしょに固めたこぶしに痛みが走る。
「ナ、ナニをするでありまするか〜」
涙目になったアイアールが黄色い頭を押さえて、抗議した。
ユイは構わず、つんと横を向く。
「アイアールがしっつれいなコト言うからでしょ」
なにがデリカシーがない、よ。
あたしだってね、デリカシーくらいあるんだから。
「でも、ユイ殿はなぜシンクロ殿が怒ったかわからないでありまする?」
「うっ…そりゃそうだけど。それとこれとは…」
「違わないでありまする」
殴られない場所まで離れてから、アイアールはきっぱり言いきった。
「じゃ、じゃあ、なによ。あたしにデリカシーがないから、シンクロが怒った理由がわからないっていうわけ?」
思わずケンカ腰になるユイからさらに離れ、頷くアイアール。
「ユイ殿…『ワンちゃん』という呼び方はシンクロ殿が敵であった時のものでありまするよ」
「それがなんだっていうのよ」
今のシンクロはバグルスのせいでウォーウルフの時の姿に戻っていた。
だから、深く考えるまでもなく、ついついその時と同じように『ワンちゃん』と呼んでしまうのだ。
でもそれをユイは悪いコトだとは思えなかった。
「グロッサーに操られてみんなを傷つけようとしたコトはシンクロ殿にとってもつらい記憶のハズ」
「つらいって…」
そう言われれば確かに…そう、なのかもしれない。
でも、それはもうずっと前のコトで。
仲間としてうまくやっている今となっては、もはや済んだコトだとユイは思っていたのだ。
「あたし、シンクロに悪いコトしちゃったのかな…」
もう一度、自分がしたこととその時の相手の様子を思い浮かべてみる。
「次から気をつければいいでありまするよ。ユイ殿」
アイアールの慰めるような言葉に頷きながら、それでもまだ何か引っかかるモノを感じる。
アイアールの言うコトはよくわかるけれど。
『ワンちゃんって呼ぶの、そんなに悪いコトなのかなあ』
悪いに決まってる、と言いきるのはなんだか不本意極まりなくて。
ユイはそんな風に感じる自分自身に戸惑いを覚えるのだった。
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