あたたかな日差しが心地よい昼下がり。
 戦いの連続ともいえる解放軍の中にあって、つかの間の休息を全身で堪能するように。
 彼女は石造りの廊下をゆっくりと歩いていた。
 と、その穏やかな空気をぶち壊す荒々しい足音が地響きとなって伝わってきて、思わず眉をひそめる。
 背後から近づいてくる足音の主が誰なのかおよそ見当がついた。
「へっ。捕まえれるもんなら捕まえてみな」
 いつもどおり、悪びれるというコトを知らないであろう声が言う。
「待てッ!!ビクトール!」
 凛とした若い女性の声がそう制止の声を上げた。
『またか』
 と、彼女は小さく舌打ちした。
 せっかく戦闘とは関係なく、平和に過ごせる時間を与えられながらどうしてこうなのか。
 しかもその騒々しさはいつも周囲に迷惑をかける。
 ここは一つ厳しく教え諭さねば。
 手にしたロッドを握りしめ、口を開こうとした瞬間、
「お、悪ィ」
 彼女の細い体はドンと突き飛ばされ、よろめいた。
 くるりと回った視界の正面に開かれた窓が迫り、息を呑む。
 窓から身を乗り出す寸前で、慌てたように後ろから差し出された手に体は引き留められた。
「だ、大丈夫ですか!?ヘリオン殿」
 真紅の軍服とやわらかそうな茶色の髪がヘリオンの目に映る。
「ああ、大丈夫だよ。バレリア」
 ほんのちょっと肩がぶつかっただけさ。
 そう応えるとバレリアはますます心配そうな顔をして、
「本当に大丈夫ですか?あの筋肉ダルマはまさに全身凶器ですからね」
 ただ事実を述べる口調でそんな暴言をさらりと吐いた。
 筋肉ダルマはまさに言い得て妙だとヘリオンも唇を歪める。
「本当にあのバカ者は…」
 腹立たしげに呟くバレリアに、
「やれやれ、今度は何をされたんだい?」
 ため息混じりに問いかけてみる。
 するとバレリアは少し恥ずかしげに間を置き、
「ああ、それが……私が所蔵していた酒をあの男が勝手に飲みまして…」
 しかも勝手に私の部屋に入って盗んだものですから。
「真面目に謝るならまだしも、まったく悪びれもせず、『いいじゃねえか』の一言なんです。あの男は」
 さすがに怒りを抑えきれない様子で応えた。 
「あのヒヨッコめが…」
 ヘリオンも頭痛をこらえるように額を押さえる。
 ビクトールの傍若無人さは誰もが知るところであり、本人に悪気がないコトも幸い理解されていた。
 今回のことも”らしい”と言えばじつに彼らしい行動だった。
 が、やはり許されることと『許すべきでないこと』もあるわけで。
「アレも少しは反省という言葉を知るべきだろうて」
 ついでに年上の者には丁重に接するコトも知るべきだろう。
 しかめっ面で呟くヘリオンの口元によぎったのはまさしく悪魔の笑みだった。

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