「じゃじゃ馬がすぎると愛想つかされちまうぞ」
 そんなコトを言ったヤツがいた。
 当の本人はがさつで無神経きわまりない性格で、強さだけが取り柄のような男だった。
「そんなの、君には関係ないだろっ」
 ほんっとうに失礼なヤツだ、と彼女は険のある目で睨みつける。
 そして、踵を返した。
 これ以上、くだらない言葉を聞きたくはなくて。
 これ以上、不安な想いは感じたくなくて。
 視線を背中に感じながら足早に廊下を歩く。
 そんな自分はまるで何かから逃げているようで、臆病者のようだと彼女は思った。
『ぼくは強いハズなのに』
 女だから力では男の人にかなわない。それでも戦士の村で育ったぶん、槍さばきはかなりのものだと自負していた。
 それに魔法を使うコトにかけては解放軍の中でもかなり優秀なほうだと思う。
『ぼくには敵を倒す強さがある』
 なのに、どうしようもない不安にかられる時がある。
「ああ、いたいた。テンガアール」
 戦場には不似合いなほど穏やかな声が彼女の名を呼んだ。
「ヒックス…」
 愛しい少年の姿に安堵すると同時に不安を抱く自分を感じて、戸惑う。
「さがしたよ。…どうかした?」
 心配げに覗き込んでくる瞳に自分の姿が映っていた。
 でもそれは小さすぎてテンガアール自身にはよく見えない。
『ぼくの姿って、ヒックスの目にはどう映ってるんだろう』
 ねえ、君はぼくを好きだって言ってくれた。
 今のぼくを好きだって言ってくれたんだよね?
 思わず口をついて出そうになった言葉に、彼女はうつむいた。
「テンガアール…?」
 まるで自分らしくない弱気だと思った。
 強くなりたいのに。
 強くありたいのに。
 こんな弱さ、すごく情けない。
「なんでもないよ、ヒックス」
 そう、こんなのなんでもないコトなんだ。
 できるだけ平静を装って、テンガアールは元気よく顔を上げた。


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