どんなに疲れていても、毎朝決まった時間に目が覚める。
 それは帝国軍に入ってから続く彼女の習慣であった。
 しかしながら、その時の機嫌はやはりどれだけ疲れがとれたかに左右されるもので。
「サイアクだな」
 やわらかな朝の光を受けながら、彼女が呟いたのはそれだった。
 前日の疲労が心身共に抜けきれてないうえ、ベッドから起きあがってまず目にした光景に彼女は胃の辺りが重くなるのを感じた。
 一日の始まりがため息というのも実に久しぶりのコト。
 ついで、再燃しかけた怒りの炎を意志の力でねじ伏せて、理性的にあろうと試みる。
『まずは身支度を整えて、散らかった部屋を少し片づけて、それから朝食だな』
 だるさを訴える体を引き起こし、汲み置きの水で顔を洗うと少しは頭の中が冷えた気がした。
 そして、洗濯済みのきれいな軍服を出してきて着込む。
 が、戦場にある者として着替えは数十秒もあればできるはずなのにこの日ばかりはボタンをかけるのももどかしく、彼女は小さく舌打ちした。
「くそっ、イライラする」
 その平常心に欠けた自分の姿がさらに苛立ちをあおる。
 鏡に映る顔は凄まじい殺気混じりの目つきをしていた。
「さすがに…これはマズイか」
 ブラシで髪をときながら、彼女は大きく息を吐き出した。
 これでは爽やかな朝が台無しだ。
 自分だけのことですめばいいが、周囲の者に不愉快な思いをさせてしまうのは本意ではない。
 それに、問題が起きてから一日経っているわけだし。
 しばらく忘れたつもりになって振る舞うか。
 そんなコトを思いながら彼女が鏡とにらめっこしていると−−−
「おいっ!!いるんだろーがッッ」
 大きな怒鳴り声と共にドンドンとドアをこぶしで殴りつける音が、した。
「……………」
 硬直した彼女のこめかみがピクリと波立つ。
「さっさと開けねえとぶち破るぞッ! バレリア」
 その声はしばらく聞きたくもなかった声で。
 しかも遠慮や悪気などカケラも感じられなくて。
 昨日の今日で、こうなるコトは十二分に予想していたとはいえ、なんて傍若無人なヤツなんだッ!
 彼女は手にしたブラシを机に叩きつけるようにして置くと、代わりにベッドの枕元に立てかけてあった愛剣を取り上げた。
 目つきの悪さなど、もはやどうでもいいことだった。


 NEXT