妙に体が重い。
 それが目覚めて最初に思ったコトだった。
 なんだか体の節々が痛むのを不審に思いながら目を開けてみるとそこは冷たく固い床の上で。
 起き抜けのぼんやりする頭で『酔っぱらって、また床で寝ちまったか?』と彼は思う。
 しかも整然と片づけられた部屋は自分の部屋ではなく、隣のフリックの部屋。
「ああ?部屋、間違えたっけか…?」
 そして起きあがろうとした瞬間、首の後ろがツキンと痛んで彼は昨夜の出来事を思い出した。
「あ、あ、あ、あいつーーーッッッ」
 床なんかで一晩過ごすハメになった原因。
「フリック!!」
 がばっと立ち上がり、ぐるりと部屋を見渡すが部屋の主は既にいない。
 寝た形跡すらないベッドを見つけ、
「逃げやがった」
 彼は苦々しく呟いた。
「くそっ」
 やり場のない怒りに目をつり上げながら扉を蹴り開け、部屋を出る。
 こうなると賢いフリックのことである。見つけるのに骨がかかるに決まっているのだ。
 それがますます憎々しい。
 朝の涼やかな空気の中を不機嫌極まりない顔つきで歩く彼に、誰もが口にしかけた朝の挨拶を喉の奥に引っ込める。
『とにかく、メシ食って、それからだ』
 一応、衣食住のそろった砦の中にいて、久々に感じるひどい空腹感。
 夕食を食べそこねた昨日の出来事を振り返り、彼は顔をしかめた。
 そして、ふと足を止める。
『フリックの野郎も許せねえが、一番許せねえヤツがほかにいるじゃねえか!』
 自分の部屋を空っぽにしやがったヤツが。
 ようやくそのコトを思い出した彼は迷うことなく、行く先を変更した。
 不本意な目覚めと、ついで空腹も手伝っていたのだろう。
 怒りにかられた彼の行動はいつも以上に無思慮きわまりないものだった。
「おいっ!!いるんだろーがッッ」
 怒鳴り声にも、ドアを殴る力にも加減はない。
「さっさと開けねえとぶち破るぞッ! バレリア」
 感情まかせの言葉。
 それをほんの少し後悔することになるのは数秒後のコト。
 しびれをきらした彼が今、まさに体当たりしようとした扉が静かに開かれる。
「バレリアッ!てめぇ」
 しかし、掴みかかろうとした手は固い棒のようなモノに遮られた。
 それは七星剣と呼ばれるバレリアの愛剣に間違いなく。
 その向こうに覗く鋭い眼光に彼は息を呑んだ。
「−−−−ッ」
 美人は怒った顔も美しいとよく言うが、まさに『凄絶な』という文句をつけてもいいほど綺麗な顔には思わず死を覚悟するほどの迫力があった。
「バ、バレリア…?」
 座った目で見据えてくる美女はというと、真一文字に唇を引き結んだまま、鞘に収まった剣を振った。
「−−−−ッ」
 ビュンと唸りを上げて空気を切り裂く剣を紙一重でかわし、彼は頬を引きつらせた。
 たとえ抜き身の刃相手ではなくとも、そのまま殴られていたら骨折のひとつやふたつしておかしくない勢いだったのだ。
「いきなりなにしやがるっ」
 むかっとしながら怒鳴り返す彼にバレリアの声はあくまで冷ややかだ。
「おもてに出ろ。ビクトール」
 貴様のようなヤツとはまともな会話など期待していない。
 だから剣でケリをつけるというその態度にビクトールもまた新たに怒りを抱く。
「上等じゃねえか」
 彼ら二人にためらいなど微塵もなかった。


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