朝。
 食堂に行ってまず最初に俺がすることは決まっている。
 周囲をぐるりと見渡し、人を捜す。
 すぐに見つかるのはたいがい窓際を好んで座る美女の方だ。
 肩にかかるやわらかそうな髪が光をうけてところどころ金色にも見える。
 彼女は俺に気づいたように顔を向け、挨拶代わりに口元をほころばせた。
『よし、一人目』
 しかも、どうやら今日はアイツがそばにいないようだ。
 彼女が一人でのんびりと食事をしている様子に俺はホッと息をつく。
『で、アイツはどこだ?』
 もう一度、食堂を見渡し、俺は首を傾げた。
『まだ来てないのか…?』
 あの大食らいが珍しいこともあるもんだ。
 そう思いながら、俺はバイキング形式で用意された料理を皿に盛りつける。
『ああ、もう食っちまったんだろうか』
 そうかもしれない。
 アイツのことだから、食べ放題の朝食時間に遅れてくるなんて考えられない。
「おはよう。フリック殿」
「おはよう。バレリア」
 久しぶりに爽やかな朝だと思いながら、窓辺でゆったりとくつろいでいるバレリアに笑いかける。
 アイツはいないとわかっているのに彼女の近くに席を取ってしまうのは、悲しい習性だ。
 まあ、それは深く考えまい。
 カリカリに焼いてあるトーストをかじりながら、思わずしみじみとしたものを覚える。
「うーん、こうやって静かな食事ってのもいいもんだ」
 そんな俺のセリフにバレリアが苦笑した。
「喜んでいるところ悪いが…」
「ん…?」
「それも時間の問題だと思う」
 言われたことの意味がわからずに、俺は怪訝にバレリアを見返した。
「どういう意味だ?」
 尋ねながら、早くもいや〜な予感を覚える。
 バレリアはそれ以上、答えようとはしなかったが、口元の笑みが確信犯めいていた。
 コイツは何かを知っている!
 …っていうか、何かしたに違いない!!
「バ、バレリア…?」
 改めて見てみれば、バレリアは既に朝食を食べ終えていた。いつもならば、食べ終えてすぐにでも仕事へ向かう彼女にしてみれば、こうしてゆっくりとお茶を飲んでいるなど珍しい事だ。
「もう少し待ってみよう」
 ちらりと壁の時計に目を向けながら、そんなことを呟く。
『待つって…待つってなにをだ!?』
 悲鳴に近い思いが俺の頭の中をぐるぐる回る。
 心臓の鼓動が嫌なリズムを刻むのを感じる俺の耳に、遠くから地響きのようなものが届いた。
 あの音はもしかしなくても、もしかして、なのだろう。
「…バレリア。何をした?」
 諦めまじりに俺は聞いてみる。
「別にたいしたことじゃないはずだが」
「はず、ってのはなんなんだよ」
 俺は頭を抱えてしまう。
 地響きはだんだん大きくなり、とうとう食堂の入口で止まった。
 それに誰もが振り向いたのは一瞬で、みんなすぐさま何事もなかったかのように食事に立ち戻る。
 関わり合いになりたくないというのもあっただろう。が、多少の出来事にはもう慣れっこになっているからなんとも思っていないというのが本当か。
 その無関心さが俺は悲しい。
「すごく怒ってるみたいだぞ」
 入口で仁王立ちになっているアイツを見つけ、俺は頬を引きつらせた。
 朝っぱらから、怒髪天をつく勢いで怒り狂っている様子が離れていてもわかる。
 しかし、問題の原因だろうバレリアはまるで人ごとのように紅茶を飲んでいたりする。
「みたいだな」
 あまりに無情な言い草に俺が何か言いかけるより先に、鋭い視線が俺を−−−というか、たぶんバレリアを射抜いた。そばにいた俺でさえ、殺人光線並みに感じるそれにバレリアはあくまで涼しげな表情でいたからよくわからないが。
 まるで炎のようなオーラを立ち上らせながら、近づいてくる気配。
 俺は反射的に自分の剣の位置を確認していた。



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