| 人魚姫U-【序】 |
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| 深い深い海の底。 美しい鱗を持った人魚たちが住んでいました。 穏やかな生き方を好む彼女たちは噂話や身繕いなどで余暇を過ごしながら、平和な毎日を送っていました。 しかし、そんな人魚の世界にもちょっとした変わり者はいるものです。 海の底の底。 彼女は深く暗い影の中に造られた小さな家の扉を叩きました。 「こんにちわ」 なかからくぐもった声が「お入り」と応えます。 「お邪魔します。ヘリオンさん」 扉を開けて礼儀正しく頭を下げる彼女の尾は燃えるような赤い色をしていました。 年老いた人魚はその色の艶やかさに目を細めながら、小さくため息をつきます。 「また来たのかい。バレリア」 困った子だね、と彼女の目は語ります。 しかし、バレリアはくすりと笑っただけで、邪魔にならない場所へと−−−いつもの定位置へと腰を下ろしました。 そして、近くに積んであった書物を取り上げます。 ふつうなら海水にインクが溶けて文字など読めないものですが、そこはヘリオンの魔法によって工夫されています。濡れた紙が破けるということもありません。 そう、ヘリオンは俗に言うところの魔女でもありました。 「ほんとに物好きだねえ。おまえさんは」 人魚たちもあまり来たがらないような場所に。 飽きることなく本を読むためにやってくるバレリアに、ヘリオンは呆れたように言います。 しかし、繰り返される問いに応える答えはいつも同じ。 「ヒマですから」 苦笑にほんの少し皮肉の影を混ぜて、バレリアは応えます。 彼女が読んでいるのは人間が書いた本でした。 ずっと前に海の底に落ちていたのをヘリオンが拾ってきたものです。 そこに書かれている海の外の世界に、バレリアは少なからず興味を持っているようでした。 それを諫めるべきだろうか、とヘリオンが思い悩むこともあります。 しかし、いくらバレリアが陸の世界に興味を持とうと、海を捨てて出ていくコトなどできないこともヘリオンにはわかっていました。 だから、この穏やかな時が崩れることなど考えもしなかったのです。 その時がやって来るまでは…。 |
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