| 願いごとひとつ【1】 |
| ******************************************************************* |
場所は作戦会議室。 そこを訪れた彼女の顔は少しご機嫌斜めのようだった。 しかし、そこで留守番役をしていたアイアールはかまわず、いつものようにふわんと飛んで彼女に近づいた。 「今日はもうみんな帰った後でありまするよ〜」 「そう」 心ここにあらずといったようにそっけない返事にアイアールは黄色い頭を傾げながらも、両手で抱えていた物を彼女の目の前に差し出した。 「アンティ殿のぶんでありまする〜。好きな色を一枚お選びくだされ」 長方形に切ってある折り紙の束に、アンティが一瞬、不思議そうに目を細める。 「ああ、七夕の短冊ね」 こよりのついた色とりどりの短冊のなかから、彼女は薄紫色の短冊を選んだ。 「よければここで書いて行ってほしいでありまする〜。みどもが集まった短冊を笹につり下げに行く係りでありまするから」 「…………」 「アンティ殿…?何を書くか決まらないのでしたら、別に後からでもかまいませぬし、それにご自分で笹のところまで持って行かれてもいいでありまするが?」 黙ったままじっと短冊を見つめているアンティを怪訝に思いながら、アイアールはそう提案してみた。 するとアンティはくすっと笑って、 「書くことならもう決まってるわ。一つしか思いつかなくて困るくらいだわ」 穏やかな声でそう応えた。 思わず見惚れるほどの微笑みのなかで、しかし、その目が笑っていない。 なんだか暗い炎のようなモノまで揺らめいているように感じて、アイアールはほんのひと飛びぶん、彼女からすうっと離れた。 「書くものならマジックでも色鉛筆でもなんでもありまするが?」 そう言って机の上の箱を示すとアンティは張り付き笑顔のまま、中から迷わず黒の極太マジックを選んだ。 薄紫色の短冊に極太マジック……風流とは言い難いが、文字がよく目立つのは確かだ。それにアンティの書くすらりと流麗な文字なら心配なんてなさそうだった。 「書けたわよ。アイアール」 よく見える大きな文字で書かれている願い事にアイアールの大きな目が点と化す。 「ア、アンティ殿〜?これは七夕の短冊でありまする〜。本当にこれでいいんでありまするか?」 「だって、これしか思いつかないんですもの」 はっきりきっぱり堂々とアンティの短冊に記された文字。 【コントロルが賢くなりますように】 いくらなんでも…ちょっと可哀想かもしれない。 差し出された短冊を受け取っていいものかどうか、ふゆふゆ飛びながら悩んでしまうアイアール。 「それじゃ、お願いするわね。アイアール」 いつまでも短冊を受け取らないアイアールにしびれを切らした様子でアンティはくるりと背を向けた。 「お待ちくだされっ!アンティ殿」 机の上に無情に取り残された短冊にアイアールはだらだら冷や汗をかいた。 「別にちょっとしたお願いなんだから、何を書いてもいいじゃない」 それはそうでありまするが〜とアイアールは一所懸命、頭をひねった。 そして、一つの妙案というか、ごり押しの説得方法を見つける。 「アンティ殿っ!!」 「な、なにかしら?」 一瞬たじろいだアンティに、アイアールはここぞとばかりにたたみかける。 「もし、本当にこの願いがかなったらどうするでありまする!?」 「え?」 「だ〜か〜らっ、コントロル殿がものすっごく賢くなったらどうするでありまする!!」 「賢くって…それはみんな助かるんじゃないかしら」 「ほんっとうにそう思うでありまするか!?」 「アイアール?」 「賢いコントロル殿なんてコントロル殿ではありませぬ!!!」 びしいいいっと指を突き立てる。 秘かにちょっと論法が変かも、なんて思ったのは隠したまま、アイアールは出来るだけ堂々と見えるように胸?を反らしてアンティを見据えた。 呆気に取られて立ち尽くすアンティ。 「……………」 「……………」 「………ぷっ」 沈黙を破り、ふいに小さく吹き出したのはアンティの方だった。 内心、アイアールはほっと息をつく。 「そうね」 確かにそうかもしわないわね、とアンティはくすくす笑いをこらえながら言った。 そして、もう一度、今度は少し細めのマジックを取り上げる。 薄紫色の短冊に小さく言葉を添えて、アンティは少しいたずらっぽくアイアールを見返した。 「はい。これならいいんじゃないかしら?」 【コントロルが〈もう少し〉賢くなりますように】 それが彼女の短冊を飾ったひとつの願い。 NEXT→【2】 |