願いごとひとつ【3】
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「みんな好きな色を一枚とって、願いごとをひとつ書いてほしいでありまする〜」

 場所は作戦会議室。
 アイアールがそう言って、長方形に切ってある折り紙の束を机の上に置いた。
 それは白からはじまって金色まで色とりどりの短冊たち。

「今日集まってほしいってこのことだったのね♪」
 あたしはなんだかうきうきしながら、どの色にしようか首を捻った。
 お祭り好きのパパがいるから今でも家で笹飾りを作ったりするけど、やっぱりこうして仲間たちとわいわい言いながら何かするのって楽しい。
 それに今日はシンクロも目の前−−−向かいの席にいるしね。

 あたしはちょっと迷った末に薄い桃色の短冊を選んだ。


「書くものならマジックでも色鉛筆でもなんでもこの箱に用意してありまする〜」

 お菓子の折り詰めくらいの大きさをした箱の中にはいろんな色のマジックや色鉛筆、それからクレヨンなんてのもあった。
 それも12色なんてけちくさいこと言わないで、36色のセットもの♪
 やっぱり漫画家を目指す人間としてはこんなふうに画材がそろってるのって見てるだけでわくわくしてくるのよね。
 しかもみんなまっさらおろしたて。
 どれで書こうかしら?
 
 あたしはいくつか短冊の色と見比べてみて、こげ茶色のクレヨンを選んだ。


「さ〜て、あとは願いごとを書くだけね♪」
 準備万端! 気合い十分!!
 何を書こうかしら?
 ええと…。
 ここはやっぱり!

『シンクロとずっと一緒にいられますように♪』

 …って、ほへ?
 へ、ええええええーーーっ!?
 しまったっ! つ、つい本音がっっっ!!!
 かあああっと顔が真っ赤になってくるのがわかって、あたしは短冊から顔を上げられなくなってしまった。

 ま、まだ書いたわけじゃないんだし。
 べ、別に恥ずかしがる必要なんてないわよねっっ。
 そうよ、大丈夫!と自分で自分に気合いを入れていたあたしの耳に仲間たちの楽しげな声が聞こえてきた。
 
「ぼくは【美しい自然を守れますように】って書いたんだっ」
「なんの。わしは【武器のない平和な世界になりますように】と書いたぞ」
 
 うっ、なんてスケールが大きい願いごとなんだろう。

「えー?ぼくは【昼寝が好き】って書いたんだけど〜」

 …って、これはちょっとちがうみたいだけど。
 ええと、ホントになに書いたらいいんだろ?
 やっぱり世界的なコト?

「ユイ殿、まだ書いてなかったでありまするか〜?」
 書き終わった短冊を集めていたアイアールに声をかけられ、あたしはびくんとした。
「…う、うん。ちょっとどうしようかなーって」
「みどもはてっきり漫画家か声優になりたいと書くのだと思ってたでありまするが」
 あっ、そういえば、そういうのもあったわね。
 でも…。
「あ、あのねっ、もう少し考えて後で書こうと思うんだけど。それで自分で笹につるしに行こうかなって」
「えーーーーーーっ」
 丸い体をのけぞらせるアイアールにあたしはびっくりした。
「な、なによ!?アイアール」
「ユイ殿、笹のある場所を知ってるでありまするかっ!?」
 笹のある場所…?
「え、と…知らない」
 アイアールは『そうでありましょうとも!』と言わんばかりの顔つきで、とある七夕企画の説明をしてくれた。
「みどもたちが参加する七夕イベントは《きっと叶うぞ!願いごと企画》というものでありまする〜」
「なに、それ…」
 これってふつーの笹飾り用の短冊じゃなかったわけ!?
「用意された笹に短冊をつるせば、その願いがきっとかなうと言われている特別企画なのでありまするよ」
「それってすごいじゃない」
「そのぶん、笹が設置された場所がふつうじゃないのでありまするよ。極寒ネットのなかでも最高峰と言われるの山の頂上なのでありまする〜。そこまで行くには危険なうえに時間もかかりまするし、ユイ殿には黙っていたでありまするよ」
「……………」
 確かに、いくらなんでもそこまではしたくないかも。
「そして、その栄誉ある”短冊お届け責任者”にみどもが抜擢されたでありまする〜」
 赤い印のついた紐を握りしめるアイアールの目から流れ落ちる滝のような涙。
 それがうれし涙なのか、悲しみの涙なのか、あたしにはわからなかった。
 わかるのは短冊を笹につるすのがとてつもなく大変そうだってコト。
 …ってことは願いごと、ちょっとは期待できるかな。

 それならやっぱりあのお願い書いてみたいな。
 こっそり自分で笹までつるしに行こうか。
 あ、そうだ!

 あたしは上手い願いごとを考えついた。

【みんなとずっと一緒にいられますように】

 これだったら、最初のお願いも一緒に入っちゃうわよね。
 ちょっと照れくさいけど、これならほかのみんなに見られても大丈夫だし。
 あたしは似顔絵付きで短冊を書き上げた。

 そこに意外な声が降ってくる。

「オレは先にあがらせてもらうぞ。アイアール」
 それは椅子から立ち上がったシンクロの声だった。
「シ、シンクロ殿!?短冊はいいでありまするか〜?」
 驚いたようにアイアールが言う。
 でも、驚いたのはあたしもいっしょだった。
 シンクロはまだ短冊をアイアールにわたしてないわよね?
「オレのは自分で持っていくからいいんだ」
「で、でも、危ないって…」
「平気だ。ユイ」
 シンクロは自信たっぷりに笑って「じゃあ、またな」と手を挙げた。
 離れてゆく背中にあたしはもう一度、自分の書いた短冊を見つめた。
 
 うん。
 そうよね♪

 あたしは急いで短冊に最初の願いを書き加える。
「待って」
 呼び止められて驚いた顔をするシンクロに。
 あたしは胸のどきどきを隠しながら笑いかける。
「やっぱりあたしも自分で持ってくわ♪」

*

 桃色の短冊を裏返して。
 色のついていない白の無地に白い色鉛筆で想いをこめる。
 
【シンクロとずっと一緒にいられますように】

 それが彼女の短冊を飾ったふたつめの願い。



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