「あなたは本当にアンティのことがお好きなんですか?」
 


 無慈悲で冷徹。
 しかし、そのぶん何事をも客観的に捕らえることのできる『分析家』の問い。
 耳に強く残るそれを反芻しながら、彼は深く息をついた。
『好き』
 その言葉の意味に時々、惑う。
 確かに自分はただ一人の女性を特別大切に感じている。
 そばにいるだけで幸せな気持ちになれた。
 それは確かな事実。
 だから、彼女に対するものが”嫌い”という感情であるはずはないと思う。
 なのに…。
「好きだ」
 その感情を言葉にするたび、言い知れない不安を覚える。
 彼女を『好き』だという自分の想いは本当に”正しい”ものなのか?と。
 近づけばくもる笑顔に。
 外される視線に。
 胸が痛んだ。
 なぜこんなことになってしまったのか。
 通常のプログラムソフトにはあり得ないこの余分な感情のせいだろうか?
 それが彼女との関係を悪化させてゆくのだろうか?
『好き』
 それはプラスに働く感情ではなかったのか?
 だから…

 - 『あなたは本当にアンティのことがお好きなんですか?』 -

 そう問われた時にはドキリとした。
 自分の”想い”が大きな思い違いであったのだろうか、と。
 そんな自問と同時に生まれた『好きに決まっているッ』という衝動的な叫びは、ついに声になることはなかった。
 誰かに面と向かってそう言いきるだけの自信がなかったのだ。
 この想いも。
 この想いが生み出すカタチも。
 どれが正しく、どれが誤りなのかわからない。
 すべてが不確かで、どこに一歩を踏み出せばいいのかすらわからなかった。
 だから、冷静な観察眼と無情な分析力を持つ相手に一つの答えを求めた。
 そう、特に彼女といくつか似通った性質を持つ男に代弁を求めたのだ。
 しかし、

 - 『私と彼女との類似点から答えを引きだそうというのが無駄の極みです』 -

 与えられたのは彼の苦心さえ無にする言葉。
 そんなことは最初からわかっていて、藁にもすがる気持ちで他人に頼った彼のココロの弱さを一刀両断する言葉だった。
「キツイ奴だ」
 あんなヤツに敵う存在もそうないだろう。
 しかし、相手に余計な情けをかけて、無責任な言葉を吐かないところは長所だと思う。
 ココロを持つプログラムソフトという新たな試みにおける未知の領域で生じた事柄は、前例がないぶん、確たる答えが与えられることはない。
 すべてが推測の範囲でしかないのだ。
「…答えは自分自身で見つけるしかないか」

 - 『俺だってな、真面目にいろいろ考えたんだぞっ』 -
 - 『真面目に?…それがそもそもの間違いなのではありませんか?』 -

 仏頂面に軽蔑の眼差しまで加えた相手の様子を思いだし、彼は苦笑する。
 そうだな。
 こんなのは俺らしくない。
『いいかげんケリをつけないとな』
 この苦しい時間に。
 この正しいのか過ちなのかもわからぬ状況に。
 しかし。
 もし仮に、自分の望まぬ結果を得たその時は…。
『俺はどうすればいいんだろうな?』


 back → 「T