*** eleven window4 * from yui ***-------------------------*


 大きな手に細長い紙片を二枚、握りしめ、青年は足早に通りを行き過ぎた。
 素早く周囲を見回す視線には油断がなく、彼が何かを真剣に探しているらしいコトはよくわかるのだが、弛んだ口元に浮かぶ笑みからはうれしくてたまらないといった心情が読みとれる。
「いかん、いかん」
 締まりなく崩れそうになる頬を軽く叩き、表情を引き締めるのだがそれも数秒しか保たない。そんな自分の様子を誤魔化すように彼は駆け足の速度で歩いてゆく。
 そんな彼の頭の中はただ一つのことでいっぱいで。
 だから、彼めがけて飛んできた靴は狙い違わず、彼の後頭部を直撃したのも仕方がないコト…だったのかもしれない。
「…っ!?」
 驚いて振り返った青年は少し離れた所で仁王立ちになっている少女の姿を見つけ、さらに目を丸くする。
「ちょっとシンクロっ!」
 息を切らした少女が少し怒った様子でずんずんと近づいてくる。その左足には靴がなかった。
「後ろから呼んでるのにぜんっぜん気づかないんだから」
 少女の言葉にすぐさま状況を察し、青年は素直に謝った。
 靴をぶつけられたことなど記憶の彼方に消し去った彼の頭の中は、探し人に出会えた喜びですでにいっぱいだ。
「悪かったな。ユイ」
 しかし、申し訳なさそうに、どころか、半ば浮かれ気分のまま明るい笑顔で謝られては少女も思わずムッとしてしまう。
「で?急ぎの用って何?」
「え?」
「え、って…急ぎの用があってあたしを探してたんじゃないの?レスキューがそう言うからあたし、シンクロ探して、何キロも追いかけたのよ!」
 よほど大変だったのか、非難混じりの口調で少女は迫る。
 ここで笑ってはますます相手の機嫌を損ねるとわかっていても、青年は吹き出さずにはいられなかった。
「シンクロ!」
「すまんすまん。ユイを探してたってのに後ろにまで気が回らなかった自分のマヌケさがおかしくてな」
「用事もないのに走り回ったあたしの方がマヌケだわ…」
 肩を落とし、息をつく少女の目の前に彼は持っていた紙片を差し出した。細長いそれには色鮮やかな花々の絵と『SpringFestival』の文字が描かれていた。
「急ぎの用ってわけじゃないが、こいつが手に入ったんでユイもどうかと思ってな」
「これってフラワーネットの入場チケットじゃないっ」
 疲れた様子だった少女の表情が一変する。
「今の季節が一番綺麗だってハルナが言ってた」
「じゃあ、行ってみるか?」
「うん♪行く行く」
 さっきまで不機嫌だったのが嘘のように笑顔ではしゃぐ少女に青年も笑顔を返し、そして、わざとらしく恭しさを装って少女の前に跪く。
「じゃあ、まずその前に…お姫サマ、ガラスの靴をどうぞ」
 彼はそう言って、照れて真っ赤になる少女の足元に靴を片方差し出した。


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