「また何かわかったら連絡するわ」
その言葉に「頼む」とだけ告げた仲間の姿が転移して消えるまで見送り、彼女は入口の扉を閉めた。
そして、それまでの穏やかな表情を消すと一転、苦痛をこらえるように顔をしかめ、閉めたばかりの扉に背をあずけた。
誰もいない室内に重いため息が響く。
「………情けない」
なんて情けないのだろうと、悔しさに爪を噛む。
大切な仲間に助力を求められながら、何もできないなんて。
自分の『未来予測』という能力はこういう時にこそ生かされるべきなのに。
自分はそのために生み出されたというのに。
「私は何をしているの?」
どうしてよいのかわからぬもどかしさと苛立ちに彼女はこぶしを扉に打ち付けた。
それでも一方では頭の中の冷静な部分が『これはよくない兆候だわ』と告げているのを認識する。
こういう風に落ち込みはじめるとそれこそ地面にめり込みそうなほど思考が暗い方へ流れてしまう。
それは未来予測の能力のためだけでなく、自身のいつもの習癖から導いた推測。
だからといって、簡単に平静を取り戻せるほど彼女は強くなかった。
未来を識る者だからこそ、いつもは周囲に求められるままに冷静な態度を貫こうとしているだけ。
なぜなら、彼女の不安な態度はそのまま不安要素を含んだ未来を示唆してしまうからだ。
「私は完璧じゃないわ」
ついと言い訳を口にしてみる。
「私の能力にだって限界がある」
重ねた呟きに、自嘲的な笑みが唇に浮かぶ。
だから、なんだというのだろう?
不安を抱く仲間に自分はありきたりな気休めを言うことしかできなかった。
彼の心が少しでも軽くなるよう、最も効果的と思われる言葉を選んだだけ。
それは未来予測の恩恵をわずかに混ぜた対応。
否定するわけではないが、自分の能力の本来あるべき使い方はこんなものではないはずだった。
なのに、一番必要とされ、役立つべきところでは無力でしかない。
「本当に…」
情けない。
と、ふいに彼女の思考が止まった。
同時にもたれていた木の扉を向こうからノックする音が響く。
落ち込みに気をとられてノックされる寸前まで気づかなかったが、彼女はすぐに来訪者が誰であるかを理解した。
扉の外には『CLOSE』の札。
ならば、不在を装って黙っていようかしら?
でも自分がここにいることなどバレてしまっていそうだし。
居留守を使ったらややこしいことになりそうね、と彼女は軽くため息をついてノブに手をかけた。
瞬時にして作りだした穏やかな笑みを唇にのせ、扉をあける。
「突然、どうしたの?」
その目の前に真っ赤なバラの花束が差し出された。
それはもういつものことであり、予測どおりでもあり、驚きはしない。
「なに、恋占いネットが久しぶりに休業中だと聞いてね。アンティ、君をお茶に誘いにきたんだ」
さわやかな笑顔を見せる青年はそう言って、気取った風に腕を差し出した。
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