誘われたのはウエスタンネットだった。
 植物の緑が少なく、地面や木造の建物といった茶系の色ばかりが目に付く風景。
 人々の服装も数世紀前の開拓者時代から再現されたものがほとんどだ。
 もちろん、アンティの隣を意気満々な様子で歩いていくコントロルも例外ではない。革製のウエスタンハットに衣装、ブーツにはちゃんと金の拍車までついている。
 しかも、胸には保安官のバッジ。
「今日もいい天気ですな。保安官殿」
 鍬を肩に担いだ老人がそう言って、コントロルに笑いかけてきた。
 ヒーロー好きのコントロルは呆れることに、ウエスタンネットでのヒーローともいえる保安官の資格をいつの間にか所得していたのだ。
「ああ、いい天気だ。調子はどうだい?」
 老人は軽く肩をすくめる。
「まあ、ぼちぼちとね。ああ、そうそう、ついこないだバラに初めて花がつきましてな。たった一つだったがきれいに咲きおった」
「そいつはすごいじゃないか」
 老人は本当にうれしそうに顔のしわをさらに深くして笑った。
「今度またうちの畑に寄ってくだされ。運が良ければ、何か咲いとるかもしれんでな」
 荒れ地を基盤に構築されたこのネットでは現実世界と同じく植物は育ちにくい。
 無意識のうちに働いたアンティの未来予測の能力は、彼女に老人のやせた畑の姿しか見せなかった。
 それは、おそらく老人がどれほど努力してもそれに反して実りは少ないというコトで。
 美しい花をたくさん育てたいのであれば、別のネットに移るのが得策といえる。
「よければその時、あんたさんもご一緒に」
 ふいにかけられた言葉にアンティは一瞬、躊躇した。
 ネットの移転を勧めるべきか、否か。
 そして、
「ええ、ぜひ」
 彼女はにっこり笑って応えるに留めた。
 老人は自分の畑をそれは大切に大切にしているのだろう。
 それを言葉の端々に感じる。
 なにより光り輝くような老人の笑顔を前に自分になにが言えるだろう?
「変わってるだろ。彼は荒れ地や砂漠に植物を育てるのが夢だったらしい」
 老人と別れてから、コントロルがそんな風に説明した。
 現実世界では幸い豊かな土地を耕す農夫で。
 家族を支える生活の中ではそんなバカげたチャレンジなど叶うはずもなく。
 引退した今、こうして架空世界の中であるけれど、現実に近いこの荒れ地で植物を育てるコトに情熱を傾けているのだ、と。
「こんな土地に花なんて不可能に思えるのにな」
 すごいもんだよ、とコントロルは関心したように言う。
「そうね…」
 私の未来予測は老人の行為に対する成果を”少ない”とみた。
 でも、本当にそうだろうか?
 確かに畑に実る植物は少ないかもしれないが、彼の心の豊かさはどうだろう?
 それに、
「もしかしたら、たくさん花を咲かせる日がくるかもしれないわ」
 その可能性は限りなくゼロに近くとも、ゼロそのものではない。
 未来予測の能力を超えた”未来”は存在するのだから。
 それを私はユイから教わった。
『そう、私の能力は…』
「アンティ?」
 怪訝そうに声をかけてくるコントロルの表情に、アンティは自分がうかつにも神妙な顔つきになっていたコトに気づく。
「どうかしたかしら?コントロル」
 誤魔化すために微笑みながら、思う。
『私の能力は本当に必要で、意味あるモノなのかしら?』
 時々、自らが存在する理由さえ疑ってしまうコトがある。
 私はどうしてこの世界に生み出されたのだろうか、と。


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