『危ないコトって…ヘリオンさんもけっこう心配性だなあ』
すぐ横で楽しそうにお菓子を食べている少女を見ながら、彼女はクスッと笑う。
「まあ、なんとなくわかんないでもないけど」
元気いっぱいの少女は見ているだけで自分も明るい気分になれるが、なにか突拍子もないコトをやらかしてくれそうで少し不安にもなってしまう。
と思っているそばから、陶器の割れる音が部屋に響いた。
「−−−っ」
「あれ?落ちちゃった」
なんでだろうと首を傾げながら、床に散らばった急須の破片を見つめるビッキー。
事の一部始終を見ていたカスミはビッキーのあまりの粗忽さに呆れて声も出ない。お茶のおかわりをして急須をテーブルに戻すはずが、置いた場所が端すぎて下に落ちてしまったのだ。
小さくため息をついて、カスミは椅子から立ち上がる。
「とにかく片づけないと…って、ふきんで拭いちゃだめっっ」
「あっ、そっか。雑巾じゃないとダメなんだっけ」
「その前にほうきとちりとりで急須のカケラを集めるんです」
きちんと片づけられた室内を見渡し、彼女は首を傾げた。
「ほうきとかどこにあるかビッキーは知ってます?」
「ビッキー、知ってるよ」
いっつも使ってるもん。
「いつも…?」
それが単なる掃除の手伝いであることを願いつつ、カスミは「じゃあ、持ってきてくれますか」とビッキーに頼んだ。そして、自分は大きな陶器の破片をゴミ箱に拾い入れる。
少し離れた所ではごそごそと棚を探る音。
「あれれ、おっかしいなあ」
「ほうき、ないんですか?ビッキー」
片づける場所でも変えたのかな、と思いながら顔を上げたカスミはビッキーを見て思わず脱力する。
「ビッキー?」
「だってね、だってね。この箱、初めて見るんだよっ」
好奇心いっぱいにそう言って差し出されたのは、和紙でくるまれた木箱だった。
それはちょうど大きめの花瓶でも入っていそうな大きさで。
カスミの顔から血の気が引く。
「ビ、ビッキー。それ、気をつけてこちらに…」
ください、と言う前にビッキーは無造作に床に箱を置く。カタンという音にカスミは一瞬、飛び上がった。
「ね、ね。これってお菓子の箱かなあ」
「それはわかりませんけど元の場所に…」
「じゃあ、開けてみたらわかるよねっ」
無邪気さ全開でそう言ったかと思うと、ビッキーは箱を留める紐を引っ張っていた。
それは色とりどりの糸で編まれた組み紐。
「まっ…か、勝手に開けたら…」
怒られる!に違いない。
そう思うものの、下手に刺激してビッキーと箱の取りあいになったら、とも怖くなる。そんなことになったら箱の中身は見るも無惨な姿になるだろう。
手を出そうか出すまいか、うろたえるカスミの前でビッキーは遠慮なく箱の蓋を開けた。
「あっ」
「ビ、ビッキー、中身には触らないでくださいねっ」
そう言うとビッキーは少し不満そうに頬を膨らませた。
「えーっ、きれいなお人形が入ってるのにー」
「え!?人形、ですか?」
ほら、と箱を見せられ、カスミは驚きに目を見開く。
「これって…雛飾りの女雛ですね」
そう、箱の中に収まっていたのは何重にも重なる華やかな着物を着たおひなさまだったのだ。
「めびなって?えっと…お姫様みたいなの?」
「ビッキーは知らないんですか?」
三月三日には女の子の成長を祝って、こうしたお人形を飾ってお祝いするんですよ。
そう説明するカスミにビッキーは早くも浮かれ出す。
「三月三日ってもうすぐだね」
お祝いパーティするんだ?
「それは…こうして人形があるからたぶん」
「ねっ、出してみていい?」
「えーと、それは…そうだ、まず落とした急須を片づけてからにしましょう」
人形を汚したら困りますから。
なんとかその場を誤魔化しつつ、カスミは箱を壊さないようテーブルの中央へと移す。
そして、箱のあった棚をちらりと見返し首を傾げた。
『それにしても、これ一体しかないなんてどうしたんだろ』
最低でも大内裏様がいないとおかしいんだけどなあ。
「カスミってば、早く片づけようよ」
「あ、はいはいっ」
ビッキーの声に促され、カスミは慌てて蓋だけすると再びほうき探しに取りかかる。
そして、濡れた床も雑巾で拭き終わった頃。
木と木が触れあう小さな音にふと目を向けた先にあったモノ。
それが何なのか理解した時、彼女は我を忘れて細い悲鳴を上げたのだった。
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