剣と剣が激しくぶつかり合う。
 火花さえ散る真剣勝負の緊迫した空気を破ったのは一つの悲鳴だった。
 たかが悲鳴ごときで慌てる人間など解放軍の砦にはほとんどいないが、次の瞬間、頭上の窓が開いて人間が降ってくるとなれば話は別だ。
 しかもちょうど打ち合っていた剣の真上となれば、なおのコト。
 その危機一髪の状況に彼は目を見開いた。
「うわっ」
「あ、危ねえッ!!」
 彼も対戦相手もとっさに飛び退いて剣を引くのが精一杯だった。
 そこに赤い色が走る。
「………ッ」
 落ちてきた相手を受け止めながら、一緒になって地面に倒れ込んだのは赤い軍服の似合う美女だった。
 そして、彼が「大丈夫か?」と声をかけるより早く彼女に駆け寄ったのは今の今まで剣を打ち合っていた男。
『さすがビクトール……早いもんだぜ』
 しかし、近くにいた自分を邪魔だとばかりに突き飛ばすのはナンだな、と彼はこめかみのあたりをヒクつらせた。
「大丈夫か!?バレリア」
 そう気遣うように声をかけたビクトールに、バレリアはわずかに顔をしかめながら「なんともない」と応えた。
 口調も声の感じもいつも通りの冷静さを感じる。が、それが気にくわないとばかりにビクトールは眉をはね上げた。
「バカ言えっ!おめえ、手ぇ下敷きにして突っ込んだだろうが」
 ちゃんと見てたぞっ。
 先に手を見せろ、と詰め寄るビクトール。それに対してバレリアはあからさまにうっとおしそうな顔をした。
「軽い打撲だ、ビクトール。そんなことより彼女の心配の方が先だ」
 淡々とそう言って、彼女は自分の上に降ってきた相手を抱き起こした。
「カスミ!大丈夫か?しっかりしろ」
 自分より他人を気遣うバレリアの性格と今の状況を考えれば当然の反応なのだが、ビクトールがそれに腹を立てたのは明らかだった。
 バレリアにくってかかろうとしたビクトールの襟首を彼は勢いよく後ろに引く。
「痴話喧嘩は後だ。ビクトール」
「なっ…フリック!!てめえっ」
「うるさいぞっ!ビクトール」
 今にもフリックにつかみかかろうとしていたビクトールも、バレリアの鋭い一喝に動きを止める。そして見事にふてくされてしまった。
「どーせ、オレはうるさい男だよ」
 しかし、そんな彼の相手をする余裕のある人間は残念ながらいない。
「リュウカン殿を呼ぶか?バレリア」
 目を閉じたままの少女を見下ろし、フリックは問う。
「いや、それより医務室に運んだほうが早いだろう」
「じゃあ俺が抱えていくか」
 と、ちょうどかがみ込んだ彼の目の前で少女の睫毛が小さく震えた。
「う……んっ…」
「カスミ?」
 バレリアが軽く頬をはたくとカスミは苦しげに眉間にシワを寄せたまま、ゆっくりと目を開いた。
「ここ…は……?バレリアさん?わたし…」
 まだ状況がよく飲み込めないとばかりに目をしばたたかせるカスミ。
「上の窓から落ちてきたんだ」
「窓…から…」
「なんで二階から落ちたくらいで目ぇ回してんだよ」
 ビクトールは大人げない八つ当たりを混ぜて、吐き捨てるように言う。
 しかし、カスミはビクトールの不機嫌に気づいた様子もなく呆然と頭上の窓を見上げ、
「あっ」
 ハッとしたように小さな声を上げた。バレリアの服をぎゅっと握りしめた彼女の顔は今にも泣き出しそうに見えた。
「なにかあったのか?カスミ」
「た、大変なんですっ!人形が…人形がっ」
「人形?」
「ビッキーがまだ上にいるんです」
 助けてっ!
 体を震わせながら言うカスミの様子に、なにやら嫌な予感を覚えながら。
「仕方ねえな」
 身を翻したビクトールの後にフリックも続いた。


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