赤い髪をブラシで梳いて、右肩のところでリボンを使ってふわりとまとめる。
 そして、服と合うよう揃えられていた黄色の靴−−−少しかかとのあるそれに履き替えるとなんだか不思議な気分がした。
 どきどきするような。
 わくわくするような。
 ちょっと恥ずかしいけど、うれしい気持ち。
「よく似合ってますわ。テンガアール」
 アイリーンの素直な賞賛の言葉に顔が赤くなる。
「へへっ、そうかな」
 テンガアールは卓上式の小さな鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめながら、照れ笑いを返した。
 少し髪型を変えただけだというのに、鏡の中の自分はまるで知らない誰かのようで。
 我ながら、けっこう可愛い女の子に見えるじゃないか、と思う。
『こういうのヒックスが見たらなんて言うだろ』
 もっとぼくのコト、好きになってくれるだろうか?
「でもなんだか、ぼくじゃないみたいだ」
 そう呟き、テンガアールはふっと眉根を寄せた。
 なんとなく…よくわからないけれど、じっと見ているうちに感じた違和感。
「ぼく……って言うの、このカッコじゃ変かな」
 鏡の中の自分を見ながら、「ぼくは」と改めて言ってみる。彼女の唇は確かにそう言葉を紡ぐために開かれていた。
 けれど、その響きはどこか不自然に感じられるもので…。
 ”ぼく”どころか、ぜんぜん女の子っぽくないしゃべり方からして今の自分の姿には合わないのかもしれないとテンガアールは気づいた。
 しかし、すぐ傍らで脱いだ服をたたんでいたアイリーンは「どうして?」と首を傾げた。
「どうしてっ…て、その…なんかこういうの着た子って”わたし”とか言うんじゃないかなあって」
「それは人それぞれですわ。まあ、時と場合によっては言葉遣いが問題になる場所もあるでしょうけれど…別にこういう服を着たから言葉遣いを変える、なんて必要はないと思いますわ」
「そうかな…?」
「テンガアールはテンガアールでしょう」
 服を変えたからって別人になる必要はありませんわ。
 諭すようにやさしく微笑みかけてくるアイリーンを見つめ、テンガアールは思わずため息をこぼしてしまった。
 別人になりたいわけじゃないけれど。
 その方がいいのかなあと思ってしまったのだ。
 そんなコトを思った自分がなんだか情けなくて、嫌になってしまう。
「テンガアール…?」
「だって、アイリーンさんって素敵なんだもの」
 こらえきれずに口をついて出た言葉は、褒め言葉だというのにどこか怒ったような口調になっていた。
「男の人ってアイリーンさんみたいにおしとやかな方が好きなのかな」
 ぼくってやっぱり可愛くない?
 少し驚いたように立ち尽くしていたアイリーンはその問いかけに、わずかに目を見開いた。
「そんなこと、あるわけないじゃありませんか」
 そして、まるで自分の娘でも見るような眼差しで問う。
「誰かに何か言われたのですか?」
 と。


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