『じゃじゃ馬がすぎると愛想つかされちまうぞ』
 つい先ほど言われた言葉をアイリーンに告げると、彼女はいつになく憤慨した様子を見せた。やさしい色をした瞳に一瞬、鋭い光がよぎったような気がして思わずテンガアールも身構えてしまった。
「本当になんて失礼なことを言うのでしょう」
 そんな失礼なことを言う人には再教育が必要ですわ。
 誰なんですの?
 そう問いつめられて、テンガアールは返事に窮した。
 これほど怒りをあらわにしたアイリーンを見るのは初めてで。
 いつも穏やかに微笑んでいる彼女からは想像もできない反応は、この後、どんな風に展開してしまうのかと少し不安を抱いてしまう。
『別にあんな無神経男、どうなったっていいけどさ』
 ただ、アイリーンに何かあったら申し訳なくて。
 一緒に怒ってくれただけでもうれしかったテンガアールは、結局相手の名を言わずにおいた。代わりに、
「ね、アイリーンさん。ぼくね、そんな風に言われたの今日が初めてじゃなかったよ」
 苦笑しながら、そう告げる。
「戦士の村にいた頃、父さんがよく言ってたもん。でもね、気にならなかった」
 だって、ぼく、本当は男の子に生まれたかったんだ。
 もっと強くなりたかったし、いろんなことをしてみたかったんだ。
 女の子だからって大人しく人形遊びしたりするのって小さい時から嫌いだったんだよね。
 そう言うと、アイリーンは目を細めてかすかに微笑んだ。
「なのに………今日はすっごく気になったんだ。なんでだろうって考えて、理由がわかって…なんだか嫌な気持ちになった」
 アイリーンはうなだれるテンガアールをベッドに座らせると、同じように横に座って静かに問いかけた。
「どうして?」
「だって…」
 だって、と言葉を詰まらせたテンガアールは泣き笑いに顔を歪ませて、アイリーンを見上げた。
「だって、みんな素敵なんだもん」
 アイリーンさんも、バレリアさんも…この砦にいる女の人ってみんなキレイで強くって素敵なんだ。
「こんな言葉、嫌いだったけど…”ぼくなんか”って思った」
 ぼくなんか、ぜんぜんダメだって。まだまだだって。
「ヒックスだって…いつかぼくのコトなんて嫌気がさして、もう追いかけてきてくれなくなるんじゃないかって」
「不安になったのね」
 やさしい囁きに押されるようにテンガアールの目から涙がこぼれた。
「…うん」
 こんなぼくは弱虫みたいで、嫌いだ。
 呟くテンガアールの肩をアイリーンはそっと抱きしめた。


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